7月11日の百物語
二つ目のお化け
東京都の民話
むかしむかし、江戸の浅草(あさくさ)で、見世物小屋(みせものごや)を出している伝七(でんしち)という男がいました。
軽業や犬の曲芸など、色々な出し物をやってみましたが、どうもお客が集まってきません。
「何かうまい出し物はないだろうか? お化け屋敷はそれなりに儲かると聞くが、あれは元手がかかるからな」
そんなある日、伝七はなじみの客に、北の国には一つ目小僧がいると聞いたのです。
「そいつだ!」
伝七は、飛び上がって喜びました。
「本物の一つ目小僧を見世物にすれば、お化け屋敷よりも儲かるに違いない。さっそく二、三人さらってきて、大もうけをしよう」
こうして伝七は、北の国へ出かけました。
山を越え、野を越え、何日も何日も北へ北へと歩いていくと、どうしたものか、暗い森の中に迷い込んでしまいました。
もう日が暮れて、帰る道さえ分かりません。
「えらいこっちゃ。こんな所で野宿とは」
その時、どこからか歌が聞こえてきました。
耳をすませてみると、どうやら子どもの声です。
「子どもがいるという事は、近くに家があるに違いない」
伝七はその家に泊めてもらおうと、熊笹を押し分けて声のする方へ行きました。
すると山の中だというのに立派な町があって、その町外れで五、六人の子どもたちが遊んでいたのです。
「おーい・・・」
伝七は子どもたちに声を掛けようとしましたが、その子どもたちの顔を見て驚きました。
何とその子どもたちは、どれもこれも一つ目だったのです。
(何と、ここが一つ目の国だったのか。よーし、あの子どもをさらって、見世物にしてやろう)
伝七は子どもたちの背後からそーっと近づくと、近くにいた二人の子どもを両手でグイと捕まえました。
そして二人の子どもを両脇に抱えて、連れ去ろうとしたとたんに、
「こら! 子どもに何をする!」
と、伝七は背中を蹴飛ばされて、地面にたたきつけられてしまいました。
伝七がひょいと顔をあげてみると、いつの間にか伝七は大人の一つ目たちに周りを取り囲まれていました。
大人の一つ目たちは、伝七の顔を見て驚きます。
「おい、見ろ! この男は二つ目だ。目が二つもあるぞ」
そして大人の一つ目たちは伝七をなわでぐるぐる巻きに縛り上げて、一つ目の国へと連れて行きました。
翌朝、伝七は見世物小屋に連れて行かれると、大勢の一つ目が集まっている前に突き出されました。
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい。
世にも珍しい、二つ目のお化けだよ。
何とこのお化けには、目が二つもあるんだ」
こうして伝七は、一つ目の国で見世物にされてしまったのです。
おしまい