7月13日の百物語
たすけとお化け
むかしむかし、ある古寺に、毎年秋風が吹く頃になると化け物が現れる様になりました。
村人たちは怖がって、秋風が吹き始めると昼間から家に閉じこもったままです。
そこへ、富山(とやま)から薬売りがやって来ました。
薬売りは太助(たすけ)という、かしこそうな若者です。
「・・・? おかしいなあ、昼間だというのに誰もおらんぞ。田畑もほったらかしで、この村はどうしたんじゃあ?」
太助は、一軒の家の戸を開けてみました。
「こんちは。薬はいらんかね」
「薬? 今は薬どころではねえだ」
村人から化け物の為に畑仕事にも出られず困っている事を聞いた太助は、胸を叩いて言いました。
「わたしは毎年、みなさんに薬を買ってもらっております。
そのお礼を、させてくだせえ。
わたしが化け物を、退治しますで」
太助は夜になるのを待って、お寺へ出かけていきました。
お寺に入っても怪しい事は何もなく、太助が大きなあくびをして居眠りを始めた時です。
どこからか白いフワッとした物が現れて、太助の前にやってきました。
「この寺に一人で来るとは、見上げた度胸じゃ。平気な顔をしておるが、お前はわしが怖くないのか?」
「ああ、怖くなんかないわい」
「あはははっ、おもしろい小僧じゃ。お前には、この世に怖いもんは何もないのか?」
「ああ、何にもないわい!」
そう言いながらも、太助の顔には冷や汗がタラタラと流れています。
「ほれ、見い。
やっぱり、怖いんじゃろう。
まあ、それでいいのじゃ。
このわしだって、たった一つだが、怖い物があるのじゃからな」
「なに? お化けのお前がか?」
「ああ、あるぞ。お前が一番怖い物を言ったら、教えてやろう」
太助は少し考えると、答えました。
「わしが怖いのは、お金じゃあ。あれは、人の心を狂わすからな。・・・で、お前の怖い物はなんじゃ?」
「わしか。わしはナス汁(じる)じゃあ」
「ナス汁? あんなにうまい物が怖いなんて、おかしなお化けじゃなあ」
次の晩、太助はお寺のいろりに大きななべをかけて、村中から集めたナスを山ほどに煮込みながら、お化けが現れるのを待ちました。
するとやがて、お化けが大きな袋をかついでやって来ました。
「小僧、お前の怖いお金をやるぞ」
チャリーーン!
「お金!? しかも小判だ! 怖い、怖いよ〜!」
太助が逃げ出すと、お化けは楽しそうに小判を投げつけました。
「それそれっ、たっぷり食らうがいい!」
たちまち部屋中が小判でいっぱいになりました。
すると今度は、太助がお化けに言いました。
「それ、お前の怖いナス汁じゃ。そうれ、怖いぞ〜!」
「ひい〜っ!」
お化けは悲鳴をあげながら庭に飛び出し、大きな木にしがみつきました。
「それそれっ! たっぷり食らうがいい!」
太助はここぞとばかりに、お化けにナス汁をなべごと浴びせました。
すると、お化けは大きなキノコに変わってしまい、部屋中にばらまかれた小判も小さなキノコに変わりました。
こうしてお化け退治をした太助は、感謝した村人たちに薬を全部買ってもらったそうです。
その後、この地方ではナスにはキノコの毒をやっつける効果があると言われ、キノコ汁にナスを入れる様になったそうです。
おしまい