きょうの百物語
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7月22日の百物語

ネコ女房

ネコ女房
沖縄県の民話

 むかしむかし、沖縄には八キロメートル以上も松並木(まつなみき)の続く海辺があり、その海辺のほら穴に化けネコが住みついていました。

 ある日の事、化けネコが美しい女に化けていると、その美しい女をネコとは思わずに一人の男が言いました。
「わしの女房になってくれ」
 その男はなかなかに立派で顔立ちもよく、化けネコもこの男が気に入って女房になりました。
 男はとてもやさしく、ネコの女房も負けじと男につくします。
 やがて二人の間に子どもが生まれて、何年かたつうちに二人は三人の子持ちになりました。
 ネコ女房は正体がばれない様に人間のふりを続けましたが、それでもネズミを見かけると飛びつきたくてたまりません。
 そこでネコ女房は男や子どもたちがいなくなると、天井裏に登ってネズミを捕らえて食べていました。

 ある日、ネコ女房が天井裏でネズミを捕っていると、ふいに子どもたちが帰ってきました。
 ネコ女房はあわてて下へおりましたが、あわて過ぎて口にネズミをくわえたままです。
 それを見た子どもたちが、びっくりして言いました。
「かあちゃん、どうしたの!? ネズミなんかくわえて、ネコみたい」
 ネコ女房はハッとして、ネズミを離しました。
「いや、これはね、ネズミがあんまりうるさいので天井裏へ行ったら、いきなりかあちゃんの口に飛び込んで来たのよ。いい子だから今日の事は、とうちゃんに言うんじゃないよ」
 ネコ女房は何とか言いくるめましたが、子どもたちは信じられないという顔をしていました。

 夕方になって男が仕事から戻ってくると、子どもたちは母親に内緒で今日の出来事を話しました。
「とうちゃん、かあちゃんが今日ね・・・」
 話を聞いた男は、びっくりです。
 なぜなら男も、以前から女房の事を不思議に思っていたからです。
 女房は誰もいない事がわかると、ネコの様にゴロゴロと喉を鳴らしたり、時にはかまどの上に登って、ネコの様に手で顔を洗う真似をしていたからです。
(もしかすると、女房の奴はネコにとりつかれたのかもしれないぞ)
 男は心配になって、子どもたちに言い聞かせました。
「かあちゃんは病気かもしれないから、気をつけてやるように」
 それ以来、子どもたちは母親をおびえる様になりました。
(子どもたちはおびえているし、おれも正直、女房が不気味でたまらない)
 そこで男は思い切って、女房に別れ話を持ち出しました。
 すると女房は、あっさりとうなずいて、
「あなたや子どもたちに嫌われては、仕方ありませんね。別れる事にします」
と、その日のうちに家を出て行きました。
(あいつ、どこへ行くのだろう?)
 気になった男は、こっそりと女房の後をつけました。

 男と別れた女房は後ろも振り向かずに歩いていって、化けネコの住みかであるほら穴の中に消えました。
 男がほら穴の外から聞き耳を立てていると、奥の方から女房の声が聞こえて来ました。
「どうやら、正体を見破られてしまいました。せっかく、うまくやっていたのに。いつかこのうらみを、必ず晴らしてやるわ」
 すると、別の誰かが言いました。
「本当に、正体を見破られたのか? お前の化け姿は、どう見ても人間にしか見えないはず。勘違いではないのか?」
「いいえ、ネズミをくわえているところを、子どもたちに見られてしまいました」
「そうか、それなら仕方ない」
 話を聞いていた男は、びっくりです。
(まさか、女房が化けネコだったなんて)
 ほら穴のネコの話しは、まだ続きます。
「しかしな、うらみを晴らすといっても、相手に呪文(じゅもん)を唱えられたらどうする? われらはあの呪文を唱えられたら、手出しが出来なくなるぞ」
「大丈夫よ。今どきの若い人間が、あんな呪文を知っているはずがないわ」
「まあ、確かにな。知っているとすれば、村一番の年寄りのおばばぐらいだろう」
 男はそれを聞くとほら穴を離れて、村一番の年寄りのおばばの家に行きました。
「おばば! おれの女房が、化けネコだった! 正体がばれた仕返しに来るから、化けネコを追い払う呪文を教えてくれ!」
「呪文か。確か呪文は・・・」
 おばばはそう言いながら、遠いむかしに覚えた呪文を思い出しながら歌いました。
♪ネコネコ鳴くな。
♪北風吹けば、南に飛ばされる。
♪南風吹けば、北に飛ばされる。
♪ネコネコ鳴くな。もう鳴くな。
 男は呪文の言葉をしっかり覚えると、家に戻って行きました。

 その晩、男が子どもたちを寝かせていたら、表から気味の悪いネコの鳴き声がひびいてきました。
「フギャー! フギャー!」
 男はネコの鳴き声に向かって、教えてもらった呪文を唱えました。
♪ネコネコ鳴くな。
♪北風吹けば、南へ飛ばされる。
♪南風吹けば、北に飛ばされる。
♪ネコネコ鳴くな。もう鳴くな。
 すると、ネコの鳴き声がおさまり、
「くやしいー!」
と、言葉を残して、一匹のネコが立ち去って行くのが見えたという事です。

おしまい

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