8月3日の百物語
ハリセンボン(針千本)になった嫁さん
富山県の民話
むかしむかし、富山のある港町に、息子のお嫁さんをいじめるお母さんがいました。
ある日の事、隣の部屋で自分の裁縫箱(さいほうばこ)をのぞいていたお母さんが、お嫁さんを怒鳴りつけました。 「あんた! わしの針山から、針を盗んだね! 一本、足りないんだよ!」
むかしの裁縫道具は、女の人の大切な嫁入り道具の一つでした。
誰もが嫁入りの時に自分の裁縫箱を持って来て大切にし、家族でも勝手にさわる事はしませんでした。
「違います。あたしは、何も知りません」
お嫁さんが何度も言いましたが、お母さんは聞き入れません。
「まったく、なんて嫁だろうね。
人の物を盗んでおいて、知らないだなんて。
人の針を使ったからって、下手な裁縫がうまくなるはずがないのに。
だいたいあんたは、何をさせてもそうだよ。
掃除にしろ、料理にしろ、洗濯にしろ、何一つ満足に出来ないんだから。
あー、やだやだ。
こんな女が、わしの義娘だなんて。
息子は、何でこんな能無しを、嫁にしたんだろうね」
お母さんはそう言って、ネチネチとお嫁さんをいじめました。
お嫁さんはお婿さんに相談しましたが、お婿さんはお母さんの味方で、お嫁さんをかばってはくれません。
「実家に戻っても、両親に恥をかかせるだけだし。・・・あたし、どうしたらいいんだろう?」
すっかりまいってしまったお嫁さんは、ふらふらと冬の海へ行くと、そのまま冷たい海に身を投げてしまいました。
それを知った村人たちはお嫁さんの遺体を探しましたが、それまで静かだった海が大荒れになってしまい、お嫁さんの遺体は見つける事は出来ませんでした。
でもその代わりに、手まりに針を千本も刺したような不思議な魚が、波打ち際に何十匹も打ち上げられていました。
土地の人たちはこの不思議な魚を『ハリセンボン(針千本)』と呼び、海に身を投げたお嫁さんを供養する為に、どこの家でも半日だけ針仕事を休むようになったという事です。
おしまい