8月7日の百物語
けちがね屋けちべえ
東京都の民話
むかしむかし、江戸の町に、駄菓子(だがし)を作って売っている駄菓子屋がありました。
この駄菓子屋では、『ねぢがね』と呼ばれる、ねじり菓子が大人気です。
そこで駄菓子屋の主人のじんべえは、『ねぢがね屋じんべえ』と呼ばれていました。
このじんべえは、けちでも有名で、もらう物なら馬の食べ残しでも喜んでもらうのに、出す物は家の仏さまにあげるお線香さえ、おしがっていたのです。
まあ、それだけならよいのですが、
「おじちゃん。ねぢがね、ちょうだい」
と、やって来る子ども相手に、お菓子の数やおつりをごまかして、
「はやく大通りに、立派な店を構えたいもんだ」
と、お金を貯め込んでいたのです。
こんな事ですから、お客たちはじんべえの事を、『けちがね屋けちべえ』と言っていました。
ある日の事、じんべえが店の奥の部屋でお金を数えていると、この辺では見かけない、ひどく腰の曲がったおばあさんがやって来て、
「ねぢがね屋じんべえは、おるかい?」
と、店ののれんをくぐると、おかみさんが止めるのも聞かずに、じんべえの前へとやって来たのです。
そして年寄りとは思えないほど、怖い声で叫びました。
「じんべえ、迎えに来たぞ!
お前の様な悪人は、わしが地獄へ連れて行ってやる。
今までの罪を、地獄でつぐないがいい」
「なんだと! 縁起でもない事を言うばばあだ。つまみ出してやる!」
じんべえがそう言って立ち上がったとたん、じんべえは白目をむいてバタリと倒れてしまい、そのまま死んでしまいました。
そしておばあさんは死んだじんべえをひょいと肩に担ぐと、そのままどこかへと消えてしまったそうです。
おしまい