8月12日の百物語
ヘビダコ
新潟県の民話
むかしむかし、文四郎(ぶんしろう)という十歳になる子どもが友だちと浜辺で遊んでいると、浜の松林の中にある地蔵堂の裏から小さなヘビがたくさん出てきました。
「わぁーっ! ヘビだ、ヘビだ! 殺してしまえ!」
文四郎は叫んで、棒切れを手にヘビを追いかけました。
ほかの友だちも追いかけましたが、ヘビは素早く岩の間の海に入って泳ぎ出します。
「逃がすなー!」
文四郎たちは着物を脱ぎ捨てると岩の間を泳いで逃げるヘビを追い回しましたが、老曾岩(おいそいわ)という岩のところへ来た時、ヘビはおかしな事に自分の体をとがった岩の角に激しくぶつけ始めたのです。
するとヘビの尻尾は何本にも裂けて、海の水が黄色に濁ってきました。
文四郎は持っていた棒切れでヘビの頭を何度も叩くと、弱ったところを棒の先につるして海の中から引き上げました。
「おや? これは何じゃ?」
何とヘビは、タコに変身していたのです。
何本にも裂けた尻尾がタコの足に変わっており、しかも吸盤の小さなイボイボまで付いていました。
頭は丸くふくらんで、タコの頭になっていました。
見た目は完全にタコの姿ですが、しかし変身の途中で文四郎に殺された為か、そのタコの足の数は本物のタコよりも一本少なく七本だったのです。
それ以来、この辺りの海では八本足のタコも七本足のタコもよくとれますが、村の漁師たちは七本足のタコがとれると、いくら立派なタコであっても、
「こいつはヘビが化けた、ヘビダコじゃ」
と、言って、決して食べなかったという事です。
おしまい