8月17日の百物語
百物語
東京都の民話
むかしむかし、江戸の浅草花川戸(あさくさはなかわど)に、道安(どうあん)という医者が住んでいました。
ある日の事、道安の所に使いの者が来ました。
「伝法院(でんぽういん)の広間(ひろま)で、百物語(ひゃくものがたり)をもよおすので、ぜひご出席いただきたい」
伝法院といえば、浅草境内(あさくさけいだい)にある由緒ある大きなお寺です。
「わかりました。必ず出席いたしましょう」
夕方になると、道安は伝法院へ出かけて行きました。
この伝法院には小堀遠州(こぼりえんしゅう→江戸前期の有名な茶人・造園家)がつくったと言われる、江戸でも名高い立派な庭がありました。
この庭を前にして、広間には九十九本のローソクが立てられています。
そしてその一本一本のローソクの後ろには、九十九人の男女がきちんと座っているのでした。
「さあ、どうぞこちらへ」
世話役らしい老人が、道安を庭が正面に見える一座の上座(かみざ→目上の人が座る場所)に案内しました。
道安が座ると、世話役の老人が白髪頭をていねいに下げて言いました。
「では、百人ちょうどそろいましたので、会を開かせていただきます。
今夜初めてご出席の方もおられますので、ちょっと申し述べます。
この百物語というのは、お一人が一話ずつ化け物の話をなさって、ご自分の前のローソクを消してまいります。
そして百本目のローソクが消されました時、本当の化け物が現れるのでございます」
すると道安が、カラカラと笑って言いました。
「この世に化け物など、おろうはずがない。
もしおったら、死んでもよいからお目にかかりたいものじゃ。
あはははははっ 」
すると広間中のローソクがいっせいに消えて、道安をのぞく九十九人の男女が、一人残らず姿を消してしまったのです。
おしまい