8月18日の百物語
百目のアズキとぎ
むかしむかし、旅の男が、一人でさみしい山道を歩いていました。
「ああ、日は暮れるし、腹は減るし、心細くなってきたな」
男がトボトボと歩いて行くと、どこからともなく、
ショキショキ、ショキショキ
と、アズキをとぐ様な音がしました。
「アズキをとぐ音か。よかった、この近くに家があるらしい。今夜は、泊めてもらおう」
男が音のする方へ行くと、どうした事か、音がピタリと止んでしまいました。
「確か、この辺りのはずだが」
しかし辺りは一面の草原で、家など見当たりません。
しかしよく見ると、足元にアズキの粒が散らばっています。
男がその一粒を拾ってみると、そのアズキはしわしわで、何だか人間を丸めた様な形をしていました。
「気味の悪いアズキだな」
するとそのアズキ粒が男の手からピョンと飛び出して、ピョンピョンピョンと逃げ出しました。
「あっ、待て。どこへ行くんだ」
男がアズキ粒を追いかけて行くと、アズキ粒はお墓の所で見えなくなりました。
「ただでさえ気味が悪いのに、墓とは。嫌な所に来てしまったわい」
男が墓から離れると、さっきのアズキ粒が後ろからピョンピョンピョンと追いかけてきます。
「うん?」
男が振り返ると、アズキ粒はピョンと消えました。
そして男がまた歩き出すと、アズキ粒が再びピョンピョンピョンと追いかけてきます。
男は怖くなって、駆け出しました。
しばらく行くと、誰も住んでいない一軒のあばら家がありました。
「ありがたい」
男があばら家に入って、ホッとしていると、
ショキショキ、ショキショキ
と、また、アズキをとぐ様な音が聞こえてきました。
「おっかねえ、おっかねえ。あれは、アズキとぎの化け物かもしれん」
男はふとんを頭からかぶって、寝る事にしました。
ところがアズキとぎの音は、ますます大きくなって、やがて、
「おーい、開けろ! ドンドンドン!」
と、戸を叩くではありませんか。
男は無視しましたが、戸が何度も何度も叩かれます。
男が仕方なく戸を開けると、そこには手にアズキの入ったカゴを持った、赤ら顔の大きな化け物が立っていました。
その化け物の顔には、何と目玉が百もついています。
「ぎゃっー!」
男が叫んで逃げ出そうとしましたが、アズキとぎの化け物は長い腕を伸ばして男をつかみあげました。
「あきらめろ! わしから逃げる事は出来ん」
男は百目のアズキとぎにすごい力で押しつぶされて、気を失いました。
男が気がつくと、体が小さくなっていました。
動こうとしてもうまく動けず、コロコロと転がるだけです。
(おれの体は、一体どうなったのだ? ・・・あっ!)
何と男の体は、アズキ粒になっていたのです。
「おや? 気がついたか。これからはわしが、お前の面倒を一生見てやるからな」
百目のアズキとぎはそう言ってアズキになった男をひょいと拾うと、持っていたアズキのカゴに男を入れました。
よく見るとアズキのカゴに入っているアズキは、全てアズキにされた人間だったのです。
おしまい