8月25日の百物語
お化け灯篭(どうろう)
栃木県の民話
日光(にっこう→栃木県)の二荒山神社(ふたらさんじんじゃ)に、高さ六尺(ろくしゃく→約百八十センチメートル)ほどの唐金(からかね→青銅の事)の灯篭(とうろう)があります。
この灯篭は、この近くの鹿沼(かぬま)に住んでいた鹿沼権三郎入道教阿(かぬまごんざぶろうにゅうどうきょうあ)という人が寄進(きしん→社寺などに金品を寄付すること)した物で、人々からお化け灯篭と呼ばれており、今でもおびただしい刀傷がついているそうです。
この灯篭が寄進された頃の二荒山神社は新宮権現(しんぐうごんげん)と呼ばれて、本殿(ほんでん)の前には多くの灯篭が並んでいて、夜になるといっせいに明りが灯されました。
ところが不思議な事に、教阿(きょうあ)の灯篭だけは明りをつけると燃える様に輝き始め、すぐに明かりが消えてしまうのです。
「もしや、油が少ないのではないのか?」
そこで油皿を大きな物に取り替えましたが、どんなに油を多くそそいでも、すぐに油がなくなってしまいます。
そこで人々は、この灯篭をお化け灯篭と呼ぶ様になったのです。
「灯篭には怪しいところは無いのに、なぜすぐに明かりが消えてしまうのだ?」
「もしかすると、灯篭に何かがとりついているのかもしれん」
「それなら、その何かが出て行く様に、灯篭を切り付けてはどうだ?」
そこで僧たちは、次の晩から灯篭を刀で切り付ける事にしました。
次の夜、以前は剣道の指南役(しなんやく)をしていた元侍の僧が、刀を持ってお化け灯篭の所へ行きました。
係りの僧が次々と灯篭に明かりを灯していき、そしてお化け灯篭にも明かりが灯されました。
明かりが灯されたとたん、お化け灯篭は燃える様に光り輝き、辺りが昼間の様に明るくなりました。
「今だ!」
元侍の僧は刀を抜くと、お化け灯篭に切りかかりました。
「えいっ!」
刀で切りつけたところから火花が飛び散りましたが、何も起こりません。
お化け灯篭はそのまま明るく輝き続け、やがていつもの様にスーッと消えました。
次の夜からも、元侍の僧をはじめ、腕に自信のある僧たちが次々とお化け灯篭に切りかかりました。
すると少しずつですが、明かりが燃え尽きるまでの時間が長くなっていく様な気がします。
「あきらめずに、毎夜切り続けるんだ!」
唐金の灯篭に切りつける為に刀はボロボロになりましたが、それでも僧たちはあきらめずにお化け灯篭を切り続けました。
でもそのおかげなのか、お化け灯篭の明かりが灯っている時間はだんだん長くなっていき、お化け灯篭が刀傷でいっぱいになった頃、ついに他の灯篭と同じ様に明かりが灯る灯篭になったという事です。
おしまい