8月30日の百物語
舌を抜くお化け
むかしむかし、ある村の八人の男たちが、酒を飲みながらこんな話をしていました。
「八畳(はちじょう)の座敷に八人で泊まると、お化けが出るっちゅうぞ」
「なにを馬鹿な。そんな事があるもんか」
「いや、本当に出るっちゅう話だ」
「それなら、ちょうど八人いるから試してみよう」
こうして村はずれの空き家の八畳の座敷に、八人が泊まる事になりました。
その晩の丑三つ時(うしみつどき→午前二時ごろ)。
八人のうち七人はグッスリと眠ってしまいましたが、とても怖がりの男が一人だけ眠れませんでした。
(お化けが出るのかな? 妖怪が出るのかな? それとも幽霊が出るのかな? どれが出ても、怖いよー)
男が布団の中でブルブル震えていると、座敷の戸が音もなくすーっと開いて、手ぬぐいをかぶった若くて色の白い女の人が煙の様に入ってきました。
そして女の人は寝ている男の枕元に座ると、顔をぴたりとくっつけて、男のくちびるを吸ってはニヤリと笑うのです。
女の人は次々と男たちのくちびるを吸っては笑い、ついに眠れないでいる男の所に来ました。
男は頭からかぶっていた布団をはねのけると、
「お化けだー! 助けてくれー!」
と、無我夢中で自分の家へと逃げ帰りました。
あくる日、逃げ帰った男が、あの空き家に行って八畳の座敷をのぞいてみると、七人が七人とも舌を抜かれて死んでいたのです。
(あの幽霊の仕業だ。あの時、あの幽霊に顔を見られたかもしれない。この村にいては殺されてしまう)
男はすぐに荷物をまとめると、そのまま旅に出かけました。
その日の夕暮れ、男は一軒の家を見つけると宿を頼みました。
「それはお困りでしょう。さあ、どうぞ」
出て来た女の人が親切に男を家に入れると、男にご飯まで出してくれました。
ご飯を食べ終えた男は、お礼のつもりに自分が旅に出た訳を話しました。
「おらの村で、恐ろしい事があったんだ。
八畳に八人で泊まるとお化けが出るとの話しなので、試しに泊まってみたんだ。
すると、その晩の丑三つ時。
座敷の戸が音もなく開いて、手ぬぐいをかぶった若くて色の白い女がすーっと入ってきたんだ。
そして女は男のくちびるを吸っては、ニヤリと笑ったんだ」
すると話を聞いていた女の人が、頭に手ぬぐいをかぶってニヤリと笑いました。
「それはもしかして、こんな顔では・・・」
見てみると、その女の人は、あの幽霊と同じ顔だったのです。
「うわぁー! 出たー!」
「うふふ。今夜は逃がさないよ」
男は逃げ出そうとしましたが、あっという間に舌を抜かれて死んでしまいました。
おしまい