9月4日の百物語
瓜生島(うりうじま)
大分県の民話
むかしむかし、大分県の別府湾には瓜生島(うりうじま)という島がありました。
瓜生島にはいくつかの村があって五千人ほどが暮らしており、豊漁(ほうりょう)をもたらしてくれる恵比寿(えびす)さまがまつられていました。
そして瓜生島には古くから、こんな言い伝えがあります。
《恵比寿さまの像(ぞう)が赤くなると、島が沈む》
ある日、この言い伝えを知った誰かが言い伝えを試してみようと、恵比寿さまの顔にベンガラ(→酸化鉄の塗料)という赤い顔料を塗ったのです。
するとその夜、島全体がぐらぐらと大きくゆれ動き、たった一夜のうちに島の人もろとも島は海に沈んでしまったのです。
それは、1596年9月4日(文禄5年7月12日)だと言われています。
さて、瓜生島が沈んだ近くに久光島(ひさみつじま)という島があり、この久光島にも瓜生島と同じ様に、
《地蔵(じぞう)さんの顔が赤くなると、島が沈む》
と、古くからの言い伝えがありました。
瓜生島が海に沈むのを見た、久光島の人たちは、
「瓜生島に伝わる言い伝えは、本当だった。
それにしても言い伝えを試してみるとは、バカな事をしたものだ」
と、自分たちの島も一緒に沈まなかった事に、胸をなでおろしていました。
ところが、それから二年後の事です。
地蔵さんへのお参りに来た島の人が、地蔵さんの顔が赤く塗られているのを見つけて大騒ぎになりました。
「誰が、あんな馬鹿な事をしたんじゃ! 瓜生島の時は、本当に島が沈んでしまったというのに!」
「とにかく、今のうちに逃げ出そう」
そう言って、一部の人が久光島から逃げ出しました。
しかし多くの人は、
「臆病者め。そんな事で、島が沈むはずがないわ」
と、島から逃げ出す人たちを見て笑っていました。
しかしその日のうちに鶴見岳(つるみだけ)が大噴火(だいふんか)をして大津波(おおつなみ)が発生し、久光島は大津波に飲み込まれて瓜生島と同じ様に海に沈んでしまったのです。
おしまい