9月18日の百物語
カッパのわび証文
山形県の民話
むかしむかし、最上川(もがみがわ→山形県)のほとりに庄屋(しょうや)の家があり、庄屋さんには美しい一人娘がいました。
その一人娘が最近元気がなくなり、顔色も青ざめてきたのです。
医者に見せても病気ではないというし、娘にどこか具合が悪いかと聞いても首を横に振るだけです。
困った庄屋さんは、知り合いの巫女(みこ)に娘をみてもらいました。
すると巫女は、娘を一目見て言いました。
「娘さんは、カッパに見込まれて術をかけられています。
わたしの力では無理ですが、法力のあるお坊さまなら、道切り(みちきり)の呪文(じゅもん)でカッパを捕まえる事が出来るでしょう」
そこで庄屋さんは、古いお寺の和尚(おしょう)さんに道切りの呪文を頼みました。
「よろしい。カッパが人間の女に心を寄せるなど、とんでもない事。こらしめてやりましょう」
和尚さんはカッパのいる川に行って、道切りの呪文を唱え始めました。
すると不思議な事に、川の水がみるみる減り始めたのです。
川の水が減って川幅がせまくなると、和尚さんは川に向かって大声で叫びました。
「カッパよ!
庄屋の娘の術を解き、二度と人間に悪さをしないと約束せい!
明日の朝までに約束の証文(しょうもん)を持って来ない時は、川の水を枯らしてくれようぞ!」
すると川の底から、苦しそうな声が聞こえてきました。
「悪かった。明日の朝、必ず証文を持っていこう」
庄屋さんが家に帰ると、カッパにかけられた術がとけたのか、娘はすっかり元気になっていました。
次の朝、和尚さんが山門に出てみると、一巻のわび証文が置いてあり、それからカッパが人間に悪さをする事はなかったそうです。
今でも高畠町糠野目(たかはたちょうぬかのめ)のあるお寺には、このカッパのわび証文が残されているという事です。
おしまい