9月19日の百物語
目玉だらけ
東京都の民話
むかしむかし、江戸のある町に、多吉(たきち)と言う名の若いたたみ職人がいました。
多吉は大変な働き者で、朝早くから夜遅くまで、たたみ職人の親方のところで一所懸命に働きました。
ある日の事、多吉は親方のところでお酒をふるまわれて、ほろ酔い気分で長屋(ながや→今で言う、アパート)へと帰って行きました。
♪春じゃ、春
♪月もおぼろの
♪なんとやら
多吉が機嫌良く歌を歌いながら町はずれの橋にやって来ると、橋のたもとのやなぎの木の下に、子どもを抱いた女の人がじっと川を見つめて立っていました。
(おおっ、こいつはいい女じゃ。
しかしこんな時間に、こんな所で何をしているんだ?
・・・おい、まさか、身投げをしようというんではあるまいな)
すると多吉に気づいた女の人が、多吉に声をかけてきました。
「あの、すみません。
ちょっと、お手を貸していただけませんか?
子どものたびが脱げそうなので、なおしていただきたいのです」
女の人は顔も美しければ声も美しく、多吉は思わず顔を赤くして言いました。
「それぐらい、おやすいご用です。ほほう、可愛いお子さんだ」
子どもの顔はお酒を飲んだ様にまっ赤で、目が細くつり上がって、みけんに三本の縦じわがあります。
正直に言うと、可愛いどころか醜い子どもですが、多吉はおせじを言って子どものたびをなおそうとしました。
「どれ坊や、じっとしていなよ」
多吉が子どもの着物のすそをまくりあげると、なんと子どもの足は毛むくじゃらで、毛の中にカエルのタマゴみたいな小さな目玉が、うじゃうじゃとあったのです。
そしてその目玉が、いっせいに多吉の事をにらみました。
「うぎゃー! でたぁー!」
びっくりした多吉は、わき目もふらずに逃げ出しました。
橋を渡って団子屋のかどを曲がり、地蔵さんの前を走り抜けてお寺の前まで来ると、ちょうど知り合いの和尚(おしょう)さんが立っていました。
多吉は和尚さんに、さっきの出来事を話しました。
「和尚さん、実は今、あそこの橋のたもとのやなぎの木の下で、目玉ばかりの化け物に出会ったのです」
多吉の話しを聞いた和尚さんは、カラカラと笑いながら、
「それは、大変じゃったな。して、その化け物は、こんな化け物ではなかったですかな?」
と、いきなり、衣のすそをまくりあげました。
見ると和尚さんの毛むくじゃらの足とお尻は、小さな目玉でいっぱいでした。
その小さな目玉たちが、多吉の顔を見てニヤリと笑いました。
「うーん!」
多吉はうなり声をあげると、そのまま後ろに引っくり返って気絶してしまいました。
おしまい