9月20日の百物語
酒呑童子
京都府の民話
むかしむかし、大江山(おおえやま→京都府)に酒呑童子(しゅてんどうじ)と言う、鬼の盗賊がいました。
酒呑童子はお酒に酔うと、いつも上機嫌になって、ポンポンと頭を叩いてニヤニヤと笑うのがくせでした。
ところが、源頼光(みなもとのよりみつ)たちに退治されてからは、酒呑童子は首だけになってしまいました。
お酒好きの酒呑童子は、首だけになっても酒を飲むのを止められません。
昼も夜も、まっ黒な雲に乗って空を飛んで歩き、酒屋を見つけると降りて来て、
グワグワグワーァ
と、気味の悪い声で脅かして、酒をただ飲みするのです。
こんなふうにして酒屋を荒らし回ったものですから、京都や大阪では黒雲を見ただけで、どこの酒屋も大戸をおろしてしまいます。
仕方なく酒呑童子は、黒雲に乗って江戸ヘやってきました。
「ありゃ。あそこに、酒屋があるぞ」
酒屋の前で、ヒラリと雲から飛び降りると、
グワグワグワーァ
「上等の酒を五升(→9リットルほど)ばかり、かんをつけて持ってこーい!」
酒屋の者たちは、まっ青になりました。
持っていかなければ、何をされるかわかりません。
急いで、かんをつけると、さかずき代わりにどんぶりをそえて、ブルブル震えながら差し出しました。
「ど、どうぞ。手じゃく(→自分でつぎながら酒を飲むこと)で、お飲みなすって」
置いて逃げようとすると、首が怒鳴りました。
「おい、おい。おれは、このとおり首だけだ。手じゃくではやれん。飲ませてくれ」
と、大きな口をバックリと開けました。
酒屋の主人は仕方なく、どんぶりについでは飲ませ、ついでは飲ませして、五升の酒をみんな飲ませてやりました。
童子の首はすっかり酔っぱらって、上機嫌です。
「ああ、久しぶりで、なんともいえん、いい気持ちだ。ついでに、わしの頭をポンポンと叩いてくれ」
と、言います。
酒屋の主人が怖々ポンポンと叩いてやると、首はいかにもうれしそうに、ニヤッと笑ったそうです。
おしまい