9月22日の百物語
金のくさりと腐ったなわ
佐賀県の民話
むかしむかし、あるところに、お母さんと三人の子どもがいました。
お母さんは庄屋さんの家のお手伝いをして、三人の子どもを育てています。
ある日の事、お母さんはいつもの様に庄屋(しょうや)さんの家へ出かけて、帰りに三つのおにぎりをもらいました。
「おいしそう。子どもたちが喜ぶだろうなあ。さあ、はやく帰ろう」
お母さんが山道を急いでいると、突然に山姥(やまんば)が現れたのです。
「い、いのちだけは、お助けを。その代わりに、このおにぎりを差し上げますから」
お母さんがおにぎりを差し出すと、山姥はおにぎりをペロリと食べて、そしておびえているお母さんまでも食べてしまったのです。
さて、子どもたちが家で留守番(るすばん)をしていると 「トントントン」 と、戸を叩く音が聞こえてきました。
「お母さんだよ、開けておくれえ」
でもその声は、おそろしくガラガラな声でした。
「お母さんは、そんな変な声じゃない。お前は、山姥だろう」
「くそーっ、見破られたか」
正体を見破られた山姥は、山へ行くと声が良くなる木の実を食べました。
「お母さんだよ、開けておくれえ」
声はお母さんに似ていますが、子どもたちは用心(ようじん)して言いました。
「じゃあ、手を見せておくれよ」
子どもたちに言われて、山姥は戸のすき間から手を差し入れました。
するとその手は、黒くて毛むくじゃらです。
「お母さんの手は、そんなに黒くて毛むくじゃらじゃない。お前は、山姥だろう」
また正体を見破られた山姥は手の毛をむしり取ると、畑に行って山イモを手に塗りつけました。
「今度こそ、本当のお母さんだよ。開けておくれえ」
山姥は、戸のすき間から手を差し入れました。
手に山イモを塗りつけたので、手はまっ白ですべすべです。
「すべすべの白い手だ。わーい、本当のお母さんが帰って来たんだ」
子どもたちが戸を開けると、お母さんに化けた山姥は一番小さな弟を抱きかかえて、さっと部屋に閉じこもってしまいました。
しばらくして上の二人の兄弟が、お母さんに声をかけました。
「お母さん、ご飯はまだ?」
すると部屋の中から、こんな答えが返ってきました。
「お前たちの弟は、うまかったよ。次はお前たちを食ってやるから、しばらくお待ち」
これを聞いて、二人の兄弟はびっくりです。
「あれは、お母さんじゃない! 山姥だったんだ! 弟は山姥に、食べられてしまったんだ!」
そこで兄弟は家を抜け出すと、いちもくさんに逃げ出しました。
兄弟が逃げ出した事に気がついた山姥は、すごい速さで兄弟を追いかけました。
「こら待てぇ! 逃がしてなるものか!」
「もう駄目だ、このままでは追いつかれてしまう」
ふと前を見ると、すぐ先に大きな木があります。
兄弟は持っていたナタで木に切れ目をつけて、木を登って行きました。
やがて追いついた山姥が、木の下から怒鳴りました。
「やい、お前たち! どうやって、この木に登ったんだ?!」
すると、上の兄が言いました。
「簡単さ。手につばをつけて登るんだよ」
山姥は言われた通りに手につばをつけて登ろうとしましたが、手がツルツルとすべって登れません。
それを見ていた二番目の兄弟が、思わず言いました。
「馬鹿だな。ナタで切れ目をつけて登ればいいのに」
「そうかい、それはいい事を聞いたよ」
山姥はナタを持っていなかったので、鋭い爪で木に切れ目を入れながら、どんどんと木を登って行きました。
「大変だー」
兄弟はあわてて上へ登りますが、もう木のてっぺんまで来ているので、これ以上は上に行けません。
そこで兄弟は、空に向かってお祈りをしました。
「おてんとうさま、おてんとうさま。どうかぼくらを、助けてください。空から金のくさりを、下ろしてください」
すると空から、金のくさりがするすると下りて来たのです。
「ありがとう、おてんとうさま」
兄弟が金のくさりにつかまると、金のくさりは兄弟をぶら下げたまま空へと登って行きました。
それを見ていた山姥も、兄弟の真似をして言いました。
「おてんとうさま。こっちにも、くさりを下ろしてくだされ」
すると今度はくさりではなく、腐ったなわが下りて来ました。
そこで山姥が腐ったなわにつかまると、腐ったなわはプツリと切れてしまい、山姥は地面へとまっさかさまに落ちて行ったのです。
こうして助かった兄弟は、やがて夜空に光り輝く兄弟星になったと言う事です。
おしまい