10月8日の百物語
山女
群馬県の民話
むかしむかし、群馬県(ぐんまけん)の草津地方(くさつちほう)では、山で仕事をする人たちは十月八日になると仕事を止めて、ふもとの村へ戻るならわしになっていました。
ある年の十月八日の事です。
山小屋で炭を焼いている三人の男が、まだ仕事が片付かないので山に残る事にしました。
「今日も仕事をせねばならぬとは、貧乏とは悲しいのう」
「まあな。しかし気晴らしに、今夜は村へ行って酒でも飲まないか?」
「いいね。そうしよう」
こうして三人が山道をおりて行くと、途中にある温泉の湯滝(ゆたき)の下の湯つぼで、人の気配がしました。
ふと見ると、月明かりの中に長い白髪の女が一人で湯につかっているのが見えました。
その女はむこうをむいたまま、三人に声をかけました。
「今頃から山をおりて、どこへ行くのじゃ?」
「ああ、村へ戻って、酒を飲みに行くんじゃ」
三人の男が答えると、白髪の女は振り向いて言いました。
「では、わたしも一緒に行きましょう」
その女の顔を見て、男たちは飛び上がって驚きました。
なぜならその女の顔は、目玉が一つしかない一つ目だったのです。
一つ目は顔のまん中にあるミカンほどの大きさの目玉を光らせて、男たちににっこりほほ笑みます。
「でっ、でたあー!」
男たちはちょうちんを放り出して、山の小屋へと逃げ帰りました。
この温泉につかっていた女は、草津の山に住む山女(やまおんな)だと言われています。
この時の山女は大人でしたが、他にも山女を見た事のある木こりの話しでは、山女は子どもだったそうです。
「年は十歳ほどの女の子で、小皿の様な目玉が顔のまん中に一つだけあって、仲間を二、三十人ほど連れていたぞ」
姿はとても恐ろしい山女ですが、山女は人をおどかす事はあっても、決して人に悪さはしないと言われています。
おしまい