10月13日の百物語
空き寺の大入道
むかしむかし、旅の僧が村はずれの空き寺へ泊まる事にしました。
その空き寺は屋根が傾き、壁は半分ほど崩れ落ちていて、まるでお化け屋敷です。
(今まで色々な空き寺に泊まってきたが、これはひどいな。まあ、草の上に寝るよりはましか)
僧はクモの巣を払いのけて本堂へ行くと、ほこりだらけの床の上へ横になりました。
その晩は空がくもっていて、月も出ていません。
風が出てきたらしく、庭の草がザワザワとゆれています。
なかなか寝付けない僧は床の上に座りなおすと、ゆっくりお経をとなえはじめました。
すると床がゆれだし、ミシッ、ミシッという足音が近づいてきます。
(怪しい気配がする。念の為、用心するか)
僧は荷物の中から煮炊き用の鉄なべを取り出して頭にかぶると、しっかりとつえをにぎりました。
ふと顔をあげると、目の前に大入道が立っています。
その大入道の顔には三つの目玉と、大きな二本の歯が生えています。
大入道は目玉をギラギラ光らせながら僧に近よると、いきなり太い腕を振り上げて僧の頭を叩きました。
ガーン!
頭にかぶった鉄なべが、大きな音を立てました。
「なんて、なんてかたい頭だ」
大入道は鉄なべをかぶっているとも知らず、とても驚いています。
僧はつえをつかんだまま、ジッと大入道を見上げました。
すると大入道が、怖い顔で言いました。
「さっさと、出て行け! ここはわしの家だ。ぐずぐずしていると、ひねりつぶすぞ!」
しかし僧は逃げるどころか、大きく飛び上がって大入道の頭につえを振り下ろしました。
「かぁぁぁっ!」
頭を力一杯叩かれた大入道は、
「ギャーッ!」
と、悲鳴をあげると、僧の前にどたりと倒れました。
僧は倒れた大入道の頭めがけて、
「えい、えい、えい!」
と、何度もつえを打ち下ろしました。
すると大入道の体が見る見る小さくなり、やがて小さな四角い木の板になりました。
僧はその板をつかむと、庭に向かって投げつけました。
ガシンッ!
板は庭の大きな石に当たって、二つに割れました。
辺りに静けさが戻り、怪しい物が出て来る様子はありません。
それでも僧は眠る事が出来ず、朝まで床に座ってお経をとなえていました。
夜が明けると、僧は庭に出ました。
「さて、大入道の正体は、一体何者か?」
僧が昨日の二つに割れた板を調べると、それは使い古した古げたでした。
「なんと、タベの大入道は、げたのお化けであったか」
僧は割れた古げたを本堂のすみに置くと、古げたにお経を唱えて、また旅立って行きました。
おしまい