10月19日の百物語
ガラクタお化け
むかしむかし、一人旅のお坊さんが、泊まるところを探していました。
「日が暮れてきたし、はやく宿を見つけないと」
辺りを見渡すと、屋根の傾いた荒れ寺がありました。
「見事にボロボロじゃが、屋根があるだけ野宿よりましじゃ」
お坊さんは、荒れ寺に入って行きました。
いろりに火をたいて体を温めていると、お坊さんは旅の疲れからかぐっすりと眠ってしまいました。
そしてどのくらいたってからか、お坊さんがふと目を覚ますと、誰もいないはずの隣の座敷の方から、賑やかな歌声が聞こえてきます。
「はて、別の旅人でも、泊まりに来たのかな?」
お坊さんがしょうじの穴から隣をのぞくと、何と壊れたからかさや、七輪(しちりん)や、かけたお皿や、そこの抜けたひしゃくや、茶がまたちが、歌を歌いながら踊っていたのです。
♪おれたち、捨てられた
♪まだ使えるのに、捨てられた
♪直しもせずに、捨てられた
(ガラクタのお化けか)
お坊さんが静かにお経をとなえると、ガラクタのお化けたちは急に静かになって、暗闇の中に消えて行きました。
次の朝、お坊さんが隣の座敷を調べてみると、押入れの中に昨夜のからかさや、七輪や、お皿や、ひしゃくや、茶がまなどが、乱暴に放り込まれていました。
「よしよし、かわいそうに。わしがとむらってしんぜよう」
お坊さんは押入れにあった物たちを取り出して、一つ一つていねいにみがいてやると、お経をあげてガラクタたちをなぐさめてやりました。
人に使われた物は、たとえガラクタであっても魂が宿ると言われています。
手入れもせず押入れに入れたままにしていると、このガラクタお化けの様に、化けて出るかもしれませんよ。
おしまい