10月24日の百物語
娘に化けた大ウナギ
山梨県の民話
むかしむかし、甲斐の国(かいのくに→山梨県)にはウナギ沢という沢があって、そこにはたくさんのウナギが住んでいました。
ある日、ウナギ沢の近くのお寺でお祭りがあり、若者たちが集まってお酒を飲んでいました。
そのうちに話しが盛り上がってウナギ沢のウナギを捕る話になると、一人の若者が言いました。
「しかしな、一匹や二匹を捕ったところでおもしろくない。一度に何百匹も捕る方法はないだろうか?」
すると、一番年上の若者が答えました。
「あるぞ。毒まんじゅうをウナギ沢に投げ込めば、沢のウナギはみんな浮いてくる。あとはそれを拾うだけだ」
「なるほど、そいつはうまい手だ。よし、みんなでウナギ沢のウナギを根こそぎ捕ってしまおう。町へ売りに行けば、たいしたかせぎになるぞ」
酒の勢いも手伝って、他の若者たちも賛成しました。
「ではさっそく、毒まんじゅうをつくろう」
一番年上の若者が、家に戻って毒の粉を持ってきました。
それぞれが土で泥ダンゴを作ると、毒の粉を泥ダンゴに混ぜて毒まんじゅうの出来上がりです。
「よし、ウナギ沢に出かけるぞ」
するとそこへ、見た事もない美しい娘がやって来て言いました。
「お前たち、バカな事をするもんじゃない! そんな事をしたらウナギ沢のウナギばかりか、魚まで死んでしまうじゃないの!」
その言葉に若者たちは顔を見合わせ、一番年上の若者が答えました。
「確かに、お前さんの言う通りだ。
よしわかった。
毒まんじゅうを沢に投げ込むのは、考えなおそう。
それより今日は、お祭りだ。
お前さんも、一緒に酒を飲んでいけ」
「おら、酒は飲めない」
「ならば、ごちそうでも食べていけや」
若者たちは毒まんじゅう作りをやめると、娘をもてなしました。
気を良くした娘は出される物を次々とたいらげると、お礼を言って出て行きました。
「ああ、すっかりごちそうになってしまって。そんなら、毒まんじゅうはもう作らんでくれよ」
さて、娘がいなくなると、一番年上の男が言いました。
「ふん。どこの娘か知らんが、よけいな事を言いおって。さあみんな、早く毒まんじゅうを作ってしまおう」
「そうとも。グズグズしていたら、日が暮れてしまうぞ」
若者たちは作った毒まんじゅうを袋につめると、大喜びでウナギ沢へと向かいました。
今日はお祭りなので、沢には魚を釣る人もいません。
「よし、そろそろ始めるぞ」
若者たちは袋から毒まんじゅうを取り出すと、沢へ投げ込みました。
しばらくするとウナギや魚が次々と水面に浮かんできて、よろよろと泳ぎ回った後、白い腹を見せたまま動かなくなりました。
「やったぞ! つかみ放題だ!」
若者たちは沢に飛び込みと、水面に浮かんだウナギや魚を岸へと放り投げました。
用意したカゴは、たちまちウナギや魚でいっぱいになりました。
「大漁、大漁。さて、引き上げるとするか」
若者たちがカゴをかついで立ち去ろうとしたら、太さが二寸(→約六センチ)、長さが六尺(→一尺は約百八十センチ)もある、見たことがない大ウナギが水面に浮かんできたのです。
「なんという、でっかいウナギじゃ。かば焼きにすれば、一匹で何十人前もあるぞ」
喜んだ若者たちは再び沢に飛び込むと、数人がかりで大ウナギを岸へ運び上げました。
そして数人で大ウナギをかつぐと、一番年上の若者の家へ戻っていきました。
この大ウナギを料理して、みんなで食べるつもりです。
「よし、いくぞ」
一番年上の若者が、包丁(ほうちょう)で大ウナギの腹を切り裂きました。
すると大ウナギの腹の中から、あの娘が食べたごちそうが次々と出てきたのです。
「これは!」
さすがの若者たちも、これにはビックリです。
「さっきの娘は、この大ウナギが化けたものに違いない。この大ウナギは、沢の主なんじゃ。こんな物を食べたら、ばちがあたるぞ」
怖くなった若者たちは捕ってきたウナギや魚を投げ捨てて、大あわてで家に帰って行きました。
やがてこの事がうわさとなり、若者たちはもちろんの事、近くの村人たちも誰一人ウナギ沢へ魚を取りに行かなくなったそうです。
おしまい