10月28日の百物語
ヒヒ(狒々)
宮城県の民話
むかしむかし、ある山里に、浅右衛門(あさえもん)という木こりのおじいさんがいました。
ある日の夕方、浅右衛門じいさんが仕事を終えて山から村へ戻る途中、突然、谷間の方から二メートルを超える大ザルが現れたのです。
この大ザルは狒々(ヒヒ)と呼ばれる妖怪で、何百年も生きたサルが妖怪になったものだと言われています。
ヒヒの手には、引きちぎった人間の片腕がにぎられていました。
(これは、ヒヒか!)
驚いた浅右衛門じいさんは、肩にかついでいたオノを振り上げました。
するとヒヒの金色の目から怪しい光が飛び出して、浅右衛門じいさんの目をくらませたのです。
「目が、目が見えん! 神さま、お助けくだされ!」
浅右衛門じいさんは振り上げたオノをその場に放り出すと、目を閉じて両手を合わせて一心に神さまへ祈りました。
すると神さまへの祈りが通じたのか、ヒヒはどこかへ行ってしまいました。
さて、それからしばらくたった、ある夜ふけの事です。
隣村で寝ていた娘さんが、何者かにほっぺたを噛みちぎられるという事件が起こりました。
ほっぺたを噛みちぎられた娘さんの話では、襲ってきたのは金色の目をした二メートルを超える大ザルだったそうです。
「ヒヒだ! ヒヒの奴にちげえねえ!」
「山の中だけならともかく、村へやって来て寝ている人間を襲うとは許せん!」
こうして二つの村では鉄砲を持った猟師たちを集めて、ヒヒ退治をする事にしました。
猟師たちが山に入り、ヒヒを探し始めてから五日後、ついに猟師たちは山を二つ越えた岩のかげでヒヒを見つけたのです。
「何て奴だ! 人の足をうまそうに食ってやがる!」
「よし、ここはおれにまかせろ」
一番腕の良い猟師がヒヒに狙いをつけて、鉄砲の引き金を引きました。
ズドーーーン!!
鉄砲の音に驚いたヒヒが飛び上がりましたが、鉄砲の玉はヒヒの片足を見事に打ち抜きました。
「それっ! ヒヒを叩き殺せ!」
ナタやオノを持った猟師たちがヒヒにとどめをさそうと飛び出しましたが、ヒヒは片足を引きづりながらも藪の中へと逃げ込みました。
「あの傷では、遠くまで行けまい」
猟師たちはすぐに血の跡を追いかけましたが、再びヒヒを見つける事は出来ず、ヒヒは二度と人間の前に姿を現さなかったそうです。
おしまい