10月29日の百物語
大蛇に変身した奥さん
山梨県の民話
むかしむかし、ある村に、二十八歳になる美しい庄屋(しょうや)の奥さんがいました。
とても働き者で、近所でも評判の奥さんでした。
ある日の事、庄屋の浮気を知った奥さんは家から走り出すと、近くにある池に身を投げてしまったのです。
奥さんの後を追って池まで行った庄屋の家の者たちは、そこで起こった事を見てびっくりです。
なんと池の中へ身を投げた庄屋の奥さんが、ものすごい顔の大蛇(だいじゃ)に変身して、水しぶきをあげながら水中へと消えてしまったのです。
庄屋の家の者たちは大慌てで家に戻ると、この事を庄屋に伝えました。
「あいつが大蛇に化けただと?! そんな馬鹿な話があるか!」
「本当です。本当に、奥さまが大蛇になったのです」
「・・・とにかく、すぐに役人に届けねば」
庄屋が役所(やくしょ)へ届けたので、やがて十数名の役人たちが取り調べにやってきました。
そして池の中で死んで浮き上がっている大蛇を、岸に引き上げて調べたのです。
庄屋の奥さんが変身したと言う大蛇の長さは約三メートルで、頭にはまだ髪の毛が少し残っており、小さな角が六本生えていました。
そして胴体からは、二本の足の様な物が生えていました。
「まさか本当に、人が大蛇に化けたのだろうか?」
役人たちは驚きながらも、大蛇のうろこの数を二十六枚と、きちんと数えて帰って行ったそうです。
おしまい