10月30日の百物語
琵琶湖の大入道
滋賀県の民話
むかしむかし、琵琶湖(びわこ)のほとりの村で、不思議な事が起こりました。
大雨があがった夜ふけに、琵琶湖の中から大入道(おおにゅうどう)たちが次々と現れたのです。
大入道たちは松明(たいまつ)の様な火をつらねて、伊吹山(いぶきやま)へと登って行きます。
大入道たちは押し黙ったままですが、その足音が地響きとなって村の家々をゆさぶりました。
「地震だ!」
村人たちは飛び起きると家の外へ飛び出しましたが、大入道の行列を見てすぐに家の中へ逃げ込みました。
「これは地震ではない! 大入道の行列だ!」
村人たちがゆれる家の中で震えていると、大入道たちは伊吹山の頂上まで登りつめたのか、やがて地響きもおさまりました。
次の日の朝、村人たちが大入道たちが歩いた所を調べてみると、三十センチを超える大きな足跡が、五、六メートルの歩幅(ほはば)で続いていました。
その大きな足で踏まれた草や畑の作物は、松明の火で焼かれた様に足跡の形にこげています。
こんな不思議な出来事は、五、六十年毎に起こっているそうです。
子どもの頃にも大入道の行列に出会って、今度が二度目のおじいさんが村人たちに言いました。
「あの時も大入道が現れたのは、大雨があがった夜ふけの事だった。
お前たちはあれを大入道の行列だと言うが、あれは琵琶湖の底にあると言われる竜宮城へ招かれた伊吹山の明神(みきょうじん)さまが、山へ帰る時の行列じゃ」
おしまい