11月11日の百物語
空家の幽霊
むかしむかし、ある町はずれに、古い空家がありました。
以前はお金持ちのお屋敷でしたが、今では屋根の瓦が崩れ、のきにはクモの巣(す)が張りめぐらされて、まるでお化け屋敷の様です。
その古い空き家に、夜になると幽霊が現れるとの噂が広がりました。
「幽霊が出るって、あの空き屋かい? それで、どんな幽霊だ?」
「それが何と、美しい女の幽霊だそうだ。年の頃なら十七、八で、♪ヒュ〜、ドロドロドロ〜と、現れるそうだ」
すると、これを聞いた気の強い男が、
「よし、おれが幽霊の正体をつきとめて、人をまどわさない様にしてやろう」
と、犬を連れて幽霊の出る空家へと出かけていきました。
空き屋に入った男は幽霊が現れるのを待ちましたが、しかし幽霊は犬が苦手なのか、いっこうに現れる様子がありません。
「はやく、出てくれないかなあ」
男が待ちくたびれていると、連れて来た犬が古い井戸(いど)のそばで、やたらに吠えると、何を思ったのか井戸の周りの土を、せっせと掘り始めたのです。
「何だ? そこに、何か埋まっているのか?」
男も掘るのを手伝うと、何とそこから、千両箱がいくつも出てきたのです。
その時、どこからともなく、女の人の声がしました。
「犬は苦手です。どこかへやってください」
「ややっ、お前が噂の幽霊だな。どこにいるのだ?」
「犬は苦手です。どこかへやってください」
「よし、わかった」
男が犬を家の外に追い出すと、男の目の前にすーっと、十七、八の美しい女の幽霊が現れました。
「わたしは、この家で働く女中(じょちゅう)でした。
この家の主人の悪い親類が、いたずらで主人の千両箱を隠したのですが、それをわたしのせいにされて、わたしは主人に殺されてしまいました。
お金が無くなった為に家は滅びましたが、わたしの無念ははれません。
お願いです。
どうか、このお金を使い果たして下さい。
このお金が無くなれば、わたしは成仏出来ます」
泣きながらうったえる幽霊に、男は言いました。
「よしよし。このお金は、おれが残らず使ってやろう。だから、成仏せいよ」
「ありがとう・・・」
幽霊は男に深く頭を下げると、そのまま消えてしまいました。
それ以来、幽霊が現れる事はありませんでした。
おしまい