11月14日の百物語
空き家で踊るネコ
むかしむかし、ある家に一匹のネコが飼われていました。
そのネコが年をとってヒゲが白くなってくると、夜な夜な家を抜け出して朝まで帰って来なくなりました。
(はて、あのネコは毎晩毎晩、どこへ行くのだろう?)
不思議に思った主人は、ある晩、家を抜け出したネコの後をつけてみました。
主人に後をつけられているとは知らないネコは、後を振り向きもせずにドンドン歩いて、村はずれの一軒家へ入っていきました。
その家は前から空き家になっていて、誰も手入れをしないので、まるでお化け屋敷の様にボロボロです。
(こんな家に、何の用があるのだ?)
主人が破れたしょうじの穴から中をのぞいてみると、明かりもないのに部屋の中がはっきりと見えます。
壁には古蓑(ふるみの→わらなどをあんで作った雨カッパ)や古笠(ふるがさ→雨をさける為のぼうし)がかけてあり、ほころびたたたみの上には古ザルや茶がまや、お酒を入れるとっくりなどが転がっています。
するとふいにどこからともなく、にぎやかな三味線(しゃみせん)の音が聞こえてきました。
そのとたん、古蓑や古笠が一人でに壁から離れて、ピョンピョンと踊りを始めたのです。
そればかりか古ザルや茶がまやとっくりまでがフワリと浮き上がり、三味線の音に合わせて踊ります。
主人はびっくりしながらも、ネコの姿を探しました。
(おらのネコは、どこへ行った?)
するとネコは古だなの上にいて、器用に足を上げたり下げたりしながら、人間の言葉で歌い出したのです。
♪古みの、古がさ、よいこらしょ。
♪古ザル、茶がまに、とっくりこ。
♪それ、スチャラカ、チャンチャン。
その歌声と踊りがとても楽しくて、主人もつい歌いながら、
♪古みの、古がさ、よいこらしょ。
♪古ザル、茶がまに、とっくりこ。
♪それ、スチャラカ、チャンチャン。
と、その部屋に入って行き、そこに落ちていたしゃもじを拾って踊り始めました。
すると古だなの上にいたネコがびっくりした顔で飛び降り、そのまま外へ逃げて行きました。
それと同時に道具たちも踊りをやめて、明るかった部屋が真っ暗になりました。
主人は急に怖くなって、しゃもじを持ったまま家に逃げ帰りました。
それから主人は、黙って後をつけた事をネコに謝ろうとネコが帰って来るのを待ち続けましたが、ネコは二度と帰って来なかったそうです。
おしまい