11月15日の百物語
お化けキノコ
むかしむかし、ある山の中に古いやしろがありました。
そのやしろの周りには、おいしいキノコが生えるので、近くの村人たちは毎年秋になるとキノコ狩りに出かけます。
ある年の秋、一人でキノコ狩りに出かけた男が、夜になっても帰ってきませんでした。
次の朝、心配した村人たちが山へ探しに行きましたが、男はどこに消えたのか、やしろの周りには男の持ち物一つ残っていません。
「もしや、神隠しにでも、あったのだろうか?」
「いや、そんなはずはない。もっとよく探してみよう」
村人たちは、やしろの中までていねいに探しましたが、やっぱり見つかりませんでした。
それからしばらくたったある日、今度はキノコ狩りに出かけた老婆が行方不明になったのです。
おまけに老婆を探しに行ったお嫁さんまでも、帰ってこないのです。
今度は村中総出で、やしろの近くばかりでなく山中を探して回りましたが、ついに見つける事は出来ませんでした。
この事があってから、キノコ狩りに行く人は一人もいなくなりました。
さて、ふもとの村に、とても度胸のすわった若者がいました。
「あれは神隠しではなく、化け物の仕業かもしれないぞ。よし、わしが正体を見届けてやる」
若者はそう言って化け物を見届けるついでにキノコ狩りをしようと、かごを持って山へ出かけました。
誰もキノコ狩りに来ないので、やしろの周りはおいしいキノコがたくさん生えています。
若者は夢中でキノコをカゴに入れながらも、時々は手を止めて化け物が出て来ないかと辺りを見回しました。
ですが、いつまでたっても化け物は現れません。
(仕方ない。今夜はやしろに泊まって、化け物が現れるのを待とう)
夜になると若者はやしろの中に入って、床の上に大の字になって寝ました。
若者がいびきをかいて寝ていると、誰かが若者の足を引っ張ります。
「誰だ!」
若者が飛び起きると、何と床の上に人間の手の形のキノコが生えていて、それが足を引っ張っているのです。
(まさか、キノコが人を襲ったのか?)
若者は手の形のお化けキノコを蹴り飛ばすと、お化けキノコをにらみつけました。
するとお化けキノコは指の部分を足の様に動かして歩き出し、床の破れたところから床下に逃げ込みました。
「待てえ!」
若者は床板をはがして、床下に飛び降りました。
すると床下には人間の骨がたくさん散らばっていて、さっきのお化けキノコが若者においでおいでをしています。
「お前が、キノコ狩りの人間を襲ったのだな!」
若者は床下に落ちていた棒を拾うと、お化けキノコを叩いて半分に引き裂きました。
すると二つになったお化けキノコはそれぞれが元の形に戻って、若者においでおいでをします。
「ふざけるな!」
若者がまたお化けキノコを引き裂くと、二つに分かれたお化けキノコはまた元の形に戻って、今度は若者に襲いかかって来ました。
お化けキノコの力はそれほど強くありませんが、叩きつぶしても、叩きつぶして、その数がどんどん増えて襲いかかってくるので、このままでは殺されてしまうでしょう。
「どうすればいいんだ!?」
その時、若者は、
『キノコは、みそ汁に弱い』
と、村の年寄りが言っていた言葉を思い出しました。
「そうか、みそ汁だ!」
若者は襲いかかるお化けキノコから何とか逃げ出すと、大急ぎで家に帰って大きな鍋に熱いみそ汁を作りました。
そしてみそ汁の入った鍋をかついで、やしろに戻りました。
「お化けキノコめ! これでも食らえ!」
若者がお化けキノコの一つにみそ汁をかけると、お化けキノコはみるみる縮まって普通のキノコになりました。
「やっぱり、お前たちの弱点はみそ汁だな」
それを聞いてお化けキノコたちがあわてて逃げ出しましたが、若者は次々とお化けキノコにみそ汁をかけていき、ついに全てのお化けキノコを退治したのです。
「これでもう、人が襲われる事はあるまい」
若者は村へ戻ると、村人たちにお化けキノコの事を話しました。
そしてみんなでやしろの床下にあった骨を持ち帰ると、ねんごろにとむらってあげたという事です。
おしまい