11月19日の百物語
光る玉
むかしむかし、ある町に、とても欲の深い和尚(おしょう)さんがいました。
ある日の事。
和尚さんが壇家(だんか→むかしから付き合いのある家)のおつとめに行って、帰りが遅くなりました。
檀家に帰りのカゴ代をもらっていたのですが、欲の深い和尚さんはお金がもったいないと、一人で夜道をトコトコ歩いて帰りました。
壇家でごちそうになったお酒に酔って、和尚さんはとてもいい気持ちです。
和尚さんが代宮橋(だいかんばし)まで帰って来ると、橋の手すりの上にピカリと光る物があります。
見れば、とても美しい玉です。
「こりゃあ、けっこうなおさずけ物があるわい。さっそく、頂いて帰るか」
和尚さんがその光る玉をつかもうとすると、光る玉はコロコロ転がって、先の方で止まりました。
「これこれ、勝手に転がるでない。傷がついたらどうする」
和尚さんがそばに行って拾おうとすると、光る玉はまたコロコロ転がって先に進みます。
「これ、待てと言うに」
光る玉は転がりながら水たまりや泥の中にも入りましたが、不思議な事に少しも汚れずに転がっていきます。
「何とも、不思議な玉じゃ」
和尚さんは、ますますその光る玉が欲しくなって追いかけました。
そして追いかけていくうちに、檀家からもらったおふせ(→お金)も、ごちそうのおみやげも、大事にしているじゅずも、みんな落としてしまったのです。
でも、和尚さんはあきらめません。
「これ、待てと言うに」
やがて町の人たちが、ふーふーと言いながら光る玉を追いかける和尚さんを見て言いました。
「それ。みんなで和尚さんを、手伝ってやれ」
和尚さんと町の人たちは、みんなして光る玉を追いかけました。
やがて光る玉は町はずれの百姓(ひゃくしょう)家の庭へ転がり込み、破れた障子(しょうじ)の穴から家の中へ飛び込んで行きました。
「それっ!」
みんなが百姓家に入ると、中で寝ていた百姓の大きく開いた口に光る玉が飛び込んで行くところでした。
「これ、これ。大事な玉を食いおって! これ、・・・えい、起きんかい!」
和尚さんは百姓をゆさぶり起こすと、百姓に言いました。
「こら! 今食ったわしの大事な光る玉を吐き出せ!」
すると百姓は、目をパチパチさせて言いました。
「わしは、何も食いはせんぞ。今、やっとの事で、家へ戻って来たとこですわい」
「なに? 家へ戻ったところじゃと?」
「へえ。家で寝ていたはずなのに、気が付いたら代官橋(だいかんばし)にいて、和尚さまをはじめ大勢に追いかけられたので、逃げて逃げて、何とか家に戻ったところですわい。ほれ、まだ胸がドキドキしとります」
百姓に逃げて来た道順を聞いてみると、和尚さんが光る玉を追いかけた道順と全く同じでした。
「さては、わしは代官橋からここまで、百姓の魂を追いかけて来たのか」
それを聞いて一緒に追いかけて来た町の人たちがくすくすと笑い出したので、和尚さんはきまりが悪くなって頭をかきながらお寺に帰っていきました。
でもその後、お寺の小僧たちに、
「百姓の魂ってものは、きれいなもんじゃ」
と、言っていたそうです。
おしまい