11月24日の百物語
カッパの宝物
むかしむかし、九州の九十九峠という峠を下ったところに、カッパ池と呼ばれる深い池がありました。
カッパ池は青黒い水をたたえた池で、この池で魚を取ったり泳いだりすると、恐ろしいカッパが現れて命を奪うと言われています。
ある日の夕方、一人のお百姓(ひゃくしょう)が、この池のふちでウマを洗っていました。
すると突然、ウマのたづながグイグイと池の方へ引っ張られました。
お百姓は慌ててウマの尻尾を掴むと、ウマを後ろへと引っ張りました。
ウマを池へ引っ張る力はとても強い力ですが、それでもウマとお百姓が一緒に引っ張る力にはかないません。
やがてウマが土手の上へ駆け上がると、ドサリと何かが落ちました。
お百姓が見てみると、それは頭に皿を乗せたカッパです。
「この野郎!」
カッパは力持ちで有名ですが、土手に引き上げられた時に頭の皿の水をこぼしてしまい、全く力が出ません。
カッパはお百姓に組みふせられて、首をしめられました。
「く、苦しい・・・」
カッパは目を白黒させながら、おがむように手を合わせます。
「もう、もういたずらはしないから、許してくれ。その代わり、わしの宝をあげるから」
「なに! 宝だと!」
宝と聞いて、お百姓はニンマリです。
「よし、では許してやろう。しかし、どんな宝をくれるというのだ」
するとカッパは、いつの間に用意したのか、一つのタルと手紙をお百姓に渡して言いました。
「ここには、宝はない。
すまんがわしの家まで、宝を取りに行ってくれ。
わしの家は峠を登って、右へ曲がった所にある。
このタルと手紙を持って行けば、家の者が宝を渡してくれるはずだ」
「・・・・・・」
お百姓は、何だか怪しく思いましたが、
(まあ、とにかく行くだけ行ってみよう)
と、覚悟を決めて、タルをかついで峠を登って行きました。
すると峠を登るにつれて、なんだか臭いにおいがしてきます。
お百姓は辺りを見回しましたが、別に変わった様子はありません。
「クンクン。・・・もしかして、このタルか?」
タルに鼻を近づけると、やっぱりにおいはタルから出ていました。
「うへぇ! 何じゃ、この魚が腐った様なにおいは?!」
お百姓はタルを開けようとしましたが、ふたがきっちり閉まっているので素手では開ける事が出来ません。
そこでお百姓は、タルと一緒に受け取った手紙を出して読んでみました。
すると手紙には、
《親分の言いつけ通り、人間の肛門を百個届けます。タルの中には九十九個入っているので、最後の一個はこの男の物を取ってください》
と、書いてあるではありませんか。
「そ、そんな馬鹿な・・・」
お百姓はタルを投げ出すと、大あわてで峠をくだっていきました。
そして男は無事に家へ戻ったものの、それから高い熱を出して七日間も寝込んでしまったそうです。
おしまい