11月25日の百物語
おらびの妖怪
高知県の民話
むかしむかし、土佐の国(とさのくに→高知県)の大きな山に、おらびと呼ばれる妖怪(ようかい)が住んでいました。
おらびと言うのは、土地の言葉で『大声を出す』との意味です。
このおらびの妖怪が、山道を通りかかる人を見つけては言うのです。
「おらと、おらび比べをしろ!」
断っては何をされるかわからないので、仕方なくおらびとおらび比べをするのですが、おらびの声はとても大きくて、ひとたびほえれば山の木々が地震の様にゆれるほどです。
これでは、人間に勝てるはずはありません。
そしておらび比べに勝ったおらびは、負けた人間を食べてしまうのです。
ですから、この山に近づく者はめったにおらず、うわさを聞いた旅人たちは、わざわざ遠回りをして他の山道を歩いて行きました。
さて、この山の近くに、とても気の強い猟師が住んでいました。
おらびのおかげで猟師仲間は山にも行けず、旅人も困っていると聞いて、
「よし。おらが、おらびの妖怪を退治してやる!」
と、たった一人で出かけて行きました。
山道をどんどん進んでいきますが、どうした事か、おらびは出てきません。
(そんなら、こっちから呼びかけてやる)
猟師は山道の途中で立ち止まると、近くの森に向かって怒鳴りました。
「やい、おらび! おらと、おらび比べをしないかー!」
すると森の奥から、
「する、する、するぞーっ! おらび比べを、するぞーっ!」
と、おらびが現れたのです。
おらびは牛よりも大きなウシガエルの妖怪で、のそり、のそり、と近づきながら、大きな口をパクパクと開けました。
(これが、おらびの妖怪か)
あまりの大きさに猟師はびっくりしましたが、それでもおらびに言いました。
「おらが先に言うか? それともお前が先に言うか?」
すると、おらびが、
「おらが先に言うぞ」
と、大きな口をいっぱいに開けて、
「うおーーーーーーっ!!!」
と、叫びました。
そのとたんに周りの木々がガタガタと地震の様にゆれだし、猟師はもう少しで気絶(きぜつ)をするところでした。
(なんという大声だ!)
しかし猟師は足を踏ん張ると、おらびの大きな口に鉄砲を向けて言いました。
「今度は、おらの番だ!」
そして鉄砲の玉を、おらびの口の中に打ち込んだのです。
ズドーーーーーーン!
おらびの大声に負けない鉄砲の音が山々に響き渡り、口の中を撃たれたおらびはそのまま引っくり返って死んでしまいました。
その後、この山でおらびが現れる事はなくなり、人々は安心して山を通る事が出来たのでした。
おしまい