11月28日の百物語
タバコ入れの中のお守り
香川県の民話
むかしむかし、ある山奥に、山仕事をしている人たちの小さな村がありました。
この村の吾作(ごさく)は体が小さくてガリガリにやせているのに、大変な力持ちです。
ほかの者たちが五、六人かかって運ぶ木も、吾作は一人で軽々と運んでしまいます。
そして吾作は村一番の働き者で、山仕事がない日は大きなカゴを背負って山菜(さんさい)などをとっていました。
ある日の事、今日は山仕事がないので、吾作はいつもの様に山菜をとりに行きました。
すると急に辺りが暗くなって、夜の様に真っ暗になったのです。
「なんだ?」
吾作が足を止めて空を見上げると、何と岩の様な大男が吾作の前に立っていました。
力では誰にも負けない吾作は、その大男に言いました。
「そんなところに突っ立っては、じゃまだ。どいてくれ!」
しかし吾作を見下ろす大男は、何も言わずに笑っています。
「何をしている!? じゃまだからどけと、言っとるんだ! どかねえなら、谷底へ転がしてやるぞ!」
吾作は背負っていたカゴを置いて、すもうをとるかっこうをしました。
すると大男が、ニヤリと笑って言いました。
「ほほう。ちびのくせに、わしとすもうをとるというのか。こいつはおもしろい」
大男はズシンズシンと地響きを立ててしこをふむと吾作と組み合いましたが、なんと吾作にひょいとひねられて、ゴロンと転がされてしまったのです。
「ふん。ずうたいがでっけえだけで、なんの力もありはせん。さあ、どいた、どいた。いつまでもせまい道にひっくり返ってねえで、どいてくれ」
すると大男はよほどくやしかったのか、もう一度吾作に勝負を挑みました。
「さっきのは、何かの間違いだ。今度はおいらが、お前をひねってくれるわ」
しかし大男はまた、吾作に転がされてしまいました。
「なんと。こんなはずでは・・・」
その時、大男の目玉がギロリと光りました。
「そうか、わかった! お前の腰にぶらさげたタバコ入れが気になって、さっきから力が入らねえんだ。今度は、それを外して勝負をしろ」
「ああ、いいだろう。何度やっても同じ事だ」
吾作は腰からタバコ入れを外すと、道のわきに投げました。
次の日の朝、山仕事に出かけた村人たちは、どこから転がってきたのか、山奥の道をふさいだ大岩の下じきになって押しつぶされている吾作を見つけました。
吾作が道のわきに投げ出したタバコ入れの中を見ると、たくさんのお守りが入っていました。
実は吾作、今までお守りの力で力持ちだったのです。
しかしお守りを手放したばかりに、吾作は死んでしまったのです。
おしまい