12月16日の百物語
らんまのろくろっ首
むかしむかし、主人である侍が仕事で旅に出たので、残された奥さんは心細くなってお手伝いさんを頼みました。
そのお手伝いさんはとても良く働き、料理も洗濯も掃除も買い物も子どもたちの世話も、何でもてきぱきとやってくれます。
ある晩の事。
お手伝いさんが寝ている隣の部屋から、お手伝いさんの苦しそうな声が聞こえてきました。
「どうしたのかしら?」
目を覚ました奥さんは、隣の部屋をのぞいてみてびっくりです。
お手伝いさんは小さなびょうぶの向こうで寝ているのですが、その首が腕よりも長く伸びているのです。
首は見ている間にもどんどん伸びて、壁にぶつかると壁にそって部屋の反対側まで伸び、また壁にぶつかると今度は縦に伸びて、らんま(→天井としょうじのしきいの間にある、かん気や明かり取りの空間)の上に乗りました。
そしてらんまを枕にして、そのままスヤスヤと眠ったのです。
「ひいーっ! ろくろっ首!」
奥さんはあまりの事に、気を失ってしまいました。
「・・・奥さま。・・・奥さま」
しばらくして、お手伝いさんが奥さんを抱き起こしました。
「ひぃーーっ!」
お手伝いさんの顔を見て奥さんは小さな悲鳴を上げましたが、その時にはお手伝いさんの首は元に戻っていました。
「奥さま、どうなさったのですか?」
「お前の首が・・・。いえ、何でもないわ」
奥さんは立ち上がると、青い顔で自分の部屋に戻りました。
(さっきのは、夢だったのかしら?)
翌朝、奥さんはお手伝いさんに買い物を頼むと、その間にお手伝いさんの部屋に行ってらんまを調べてみました。
すると、お手伝いさんがまくらにしていた部分だけほこりがなく、お手伝いさんの物と思われる髪の毛が数本引っかかっていました。
(やっぱり、夢ではなかった)
奥さんはお手伝いさんが帰って来ると、すぐに仕事をやめてもらったそうです。
おしまい