12月20日の百物語
とっつく、くっつく
むかしむかし、ある村に与作(よさく)という男がいました。
大変な恐がりで、長いへちまがぶらさがっているのを見てドッキリ、草がざわついてもドッキリ。
ネズミが現れると、腰を抜かして、
「おかか、助けてくれろっ!」
と、言った次第です。
「やんれ、こんなでは、この先どうなるもんだか」
と、おかみさんもなげいておりました。
ある日、与作は村の寄り合いに出かけましたが、帰りは日も暮れて、おまけに雨も降っています。
「気味が悪いな。化け物が出よったら、どうしよう?」
ヒヤヒヤのビクビクで、ようやく家にたどりつきました。
「やんれ、これでまんず安心」
だけれど、この安心が油断の元で、戸口に足を入れたとたん、気味の悪い冷たい手が与作の首をつかまえました。
「ヒェェー! おかか! 助けてくれろっ。おら、化け物につかまっちまったあ〜!」
おかみさんがよく見ると、屋根の雨粒が与作の首をぬらしていました。
「屋根の雨ん粒やないか。化け物ちゅうもんは、みんなこういうもんだよ、お前さん」
「へええ、化け物ちゅうのは、みな、雨ん粒の事か」
さて次の日。
友だちの作ベえどんに、出会いました。
「与作どん聞いたか? 川っぷちに毎晩化け物が出るちゅうこった」
「ははん、雨ん粒だな」
「何やらわからん様な、恐ろしい奴が追いかけてきよるんだと」
あの晩から化け物は雨粒だと思い込んでいる与作は、全然恐くありません。
「だらしねえ奴らだ。よし、おらが行ってこらしめてやる」
与作がその晩、川っぷちに出かけて行くと、草の中から気味の悪い声が聞こえて来ました。
「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」
(全然怖くねえ。化け物は、みな雨ん粒だから平気なもんだ)
与作は、その気味の悪い声に向かって、
「ああ、とっつけや、くっつけや」
「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」
「ええとも、とっつけや、くっつけや」
すると草がザワザワとゆれて、まっ黒けの奇妙(きみょう)な奴が出てきて、
「そんなら与作どん、お前にくっつくから、おんぶしろ」
「仕方ねえな。そら、背中につかまれや」
与作が化け物をおんぶして歩き出すと、『チャリーン』『チャリーン』と音がします。
「お前の体は、馬鹿に固いな。それにズッシリと重い。のう、雨ん粒お化け」
「そうとも、おらはこれから与作どんの家で、暮らす事にしたぞ」
与作が化け物を連れて帰ってくると、おかみさんは大喜び。
「まあ、お前さん、こりゃ、まあ!」
与作がおんぶしてきた物は大きなかめで、その中には何と、ピカピカの小判がギッチリと詰まっていました。
おしまい