12月25日の百物語
カナウを退治したナマズ
佐賀県の民話
むかしむかし、川上川(かわかみがわ)という川は魚がたくさん取れる川で、それを狙ってかカナウという魔物が住むようになりました。
カナウとは何百年も生き続けたヘビのマムシが魔物になったもので、夜の川面(かわも)を火の玉の様に飛び回ると言われています。
ある夏の夜、川上川で漁(りょう)をしていた男が突然姿を消してしまったので、村人たちは恐ろしくなって昼間でも川で魚を取る者はいなくなってしまいました。
しかしある夜、その事を知らない近くの村の親子が、川上川へ魚取りに来ました。
誰も川で魚を取らないので、川にアミを入れると面白い様に魚が取れます。
親子が取った魚を袋に入れてひと休みしていると、暗闇に青白い二つの火の玉が現れて、川面すれすれを飛びながら川原にいる二人に向かってきたのです。
「あれは、何じゃ!?」
その時、バシャ! と、大きな水音がして、火の玉が目の前で突然消えてしまいました。
恐ろしくなった親子は取った魚も持たずに、そのまま逃げ出してしまいました。
次の朝早く、親子は魚の入った袋を取りに、川上川へやって来ました。
袋はそのままになっていましたが、中には自分たちが取った覚えのない大きなお腹のナマズが入っていました。
あまりにも大きなお腹だったので、親子はその場でナマズのお腹を裂いてみました。
すると見た事もない、ヘビの様な奇妙な生き物の死体が出てきたのです。
近くの畑に村のお百姓(ひゃくしょう)がいたので、親子が奇妙な生き物の死体についてたずねてみると、お百姓はとても珍しい物を見たという顔で、それがカナウと呼ばれる魔物だと教えてくれました。
「カナウは自分のなわばりの川を荒らす人間を食う魔物でな、きっと魚を取っていたあんたたちを食おうとして、川面を走ってきたんだろう。それを淀姫(よどひめ)さまの使者(ししゃ)であるナマズがやっつけて、あんたたちを救ってくれたんじゃ」
「淀姫さま?」
「淀姫さまとは、むかし、この村にいたお姫さまで、嵐(あらし)を呼ぶ事が出来る不思議な宝の玉をもらいに、竜宮城(りゅうぐうじょう)へ行ったそうだ。
その淀姫さまを背中に乗せて竜宮城まで運んだのが、この川上川の大ナマズじゃ。
淀姫さまが竜宮城に行った年に川辺に淀姫さまの神社が建てられ、その時から村人たちは川上川や村を守ってくれる淀姫さまの使者であるナマズを決して食べない事にしたそうじゃ。
もしも食べたりしたら淀姫さまの怒りにふれて、たちまち激しい腹痛をおこして苦しむとも言われておる」
話を聞いた親子はカナウから自分たちを守ってくれたナマズに感謝して、川岸にナマズのお墓を作ると手を合わせました。
おしまい