12月26日の百物語
化け物を退治した絵のネコ
富山県の民話
むかしむかし、あるところに、ネコの絵を描くのがとても上手な子どもがいました。
眠っているネコ、遊んでいるネコ、ご飯を食べているネコと、どのネコの絵も本物そっくりで、大人の絵描きもかなわないほどです。
ある時、子どもは絵の道具をかついで、家を出て行きました。
「おら、ネコの絵を描きながら旅をしてくる」
子どもはお金がなくなるとネコの絵を描いて、それを売ったお金で旅を続けました。
そんなある日、さびしい村はずれで宿が決まらないまま、日が暮れてしまいました。
(弱ったな。どっかに泊まるところはないかな?)
子どもがとぼとぼと歩いていると、古いお寺がありました。
まるでお化け屋敷みたいに荒れたお寺で、誰も住んでいません。
(気味が悪いけど、今夜はここで泊まろう)
子どもは床板のあちこちが落ちた、ほこりだらけのお堂に入って行きました。
実はこのお寺、むかしは立派なお寺だったのですが、和尚(おしょう)さんがなくなってから化け物が住むようになって、この様に荒れてしまったのです。
そんな事とは知らない子どもは、お堂の壁に自分の描いたネコの絵をはると、そのまま横になって眠りました。
真夜中、どこからかイヌの様に大きなネズミが出てきて、子どもに噛み付こうとしました。
そのとたん、お堂の壁にはられた絵の中からネコが次々と飛び出してきて、
「ニャオーーン!」
と、自分よりも大きなネズミに襲いかかったのです。
でもさすがは人食いネズミ、襲いかかるネコを簡単に振り払うと、ネコに向かって鉄の様なキバをむきました。
その騒ぎに目を覚ました子どもは、怖くて逃げる事も出来ません。
「ギャオォォーーーー!」
「フギャーーーーーー!」
ネコたちと大ネズミの戦いは何時間も続き、やがて子どもは怖さのあまり気を失ってしまいました。
次の朝、子どもがふと目を覚ますと、目の前に大ネズミが血まみれになって死んでいたのです。
(おらを助けてくれたネコたちは、どこへ行ったのかな?)
子どもが辺りを見回すと、壁にはったネコの絵のネコたちがいっせいに、
「ニャーオン」
と、鳴きました。
よく見ると、どのネコも体中に傷があります。
「お前たち、助けてくれてありがとう」
子どもは絵の道具を開くと、ネコの傷を上手に描き直して傷を治してやりました。
そして傷の治ったネコの絵を外して大切にふところに入れると、絵の道具をかついでお寺を出ていきました。
その後、このお寺に化け物が現れる事はありませんでした。
おしまい