12月28日の百物語
山姥の顔をしたかんぴょう
むかしむかし、ほら穴のたくさんある谷に、山姥(やまんば)が住みつくようになりました。
ある日の事、その山姥が人間のおばあさんに姿を変えて、機織り(はたおり→布を作る仕事)の家へやって来て言いました。
「わしは若い頃から糸をつむいできたので、ここで仕事をさせてくれ。金もいらんし、ご飯も食べないから」
主人は、
(おかしな事を言う、おばあさんだ)
と、思いましたが、ただで働いてくれるので、喜んでおばあさんを働かせる事にしました。
おばあさんは毎朝同じ時間にやって来ると、夕方まで糸車を回して糸をつむぎます。
ところが一日中仕事をしているのに、何日たっても糸まきの太さが変わりません。
不思議に思った主人が、そっと仕事場の様子を見てみると、おばあさんは糸車を回しながらあくびばかりしています。
(なんだ、あの大口は!)
あくびをするおばあさんの口はとても大きく、人の頭がすっぽり入ってしまうほどです。
(さてはあのばあさん、人間じゃないな。よし、わしが正体を暴いてやる)
次の日、主人は仕事場に行くと火鉢(ひばち)に小石を入れて、おばあさんがあくびをするのを待っていました。
しかし仕事場に主人がいるせいか、おばあさんはあくびをしません。
(さては、気づかれたかな?)
そこで主人は居眠りをしたふりをすると、わざと大きなあくびをしました。
するとおばあさんもつられて、大きな口を開けてあくびをしたのです。
(今だ!)
主人は火箸で焼けた小石をつかむなり、おばあさんの大口に投げ入れました。
「ウギャャャァァーーー!」
おばあさんは悲鳴をあげて飛び上がると、外へと逃げ出しました。
「それっ! 追いかけろ!」
主人は若い男たちと一緒におばあさんを追いかけましたが、おばあさんは、あっという間に姿を消してしまいました。
それから数日後、村人が谷川のそばで魚を取っていると、目の前のほら穴から人がうめく様な声がします。
中をのぞいてみると、なんと山姥が苦しそうにもがいているではありませんか。
(もしかしたら、機織りの所に現れた山姥かもしれない)
機織りの主人から話を聞いていた村人は、大急ぎで機織りの主人に山姥の事を知らせました。
そこで主人が男たちを連れてほら穴へ行くと、そこには山姥の姿はなく、口の中をやけどした一匹の山犬が死んでいました。
「さては、この山犬が山姥に化け、さらに、あのばあさんに化けて家へ来ていたのか」
主人は山犬の死体をほら穴から引きずり出すと、近くの山に穴を掘って埋めました。
さて、その年の夏、機織りの主人の家で育てているかんぴょうのつるに、大きな実がなりました。
そしてその実は大きくなるにつれて、だんだんと人の顔の形になってきました。
「この顔は、・・・あっ!」
なんとその顔は、あの山姥の顔にそっくりだったのです。
「早くあの実をとって、川へ捨てて来い」
主人の命令で、若い男がその実を川へ捨てに行きました。
「しかし、見れば見るほど人の顔だ。このまま捨てては、川下の人たちがびっくりするだろうな」
そう思った若い男がオノでかんぴょうの実を二つに割ると、何と中からまっ赤な血が吹き出したのです。
「うえっ!」
驚いた若い男はかんぴょうの実を川へ投げ捨てると、逃げる様にその場を離れました。
二つに割られた山姥の顔そっくりのかんぴょうの実は、川の水を赤く染めながら川下の方へ流れて行きました。
この事があってから機織りの家に次々と不幸が起こり、やがて機織りの家はほろんでしましました。
おしまい