8月1日の小話
親父さまあり
さて、江戸の下町(したまち)に、たいヘんりちぎなおやじさまがありました。
ある日のこと、むすこにむかって、しみじみと言い聞かせました。
「人というものは、ふだんからの心がけが、なにより大事じゃ。家にある物には、道具、ふくろ物、風呂敷包みにいたるまで、きちんと中身をかきつけておけ。いざというとき、だれが見てもわかるようにな」
むすこのほうも、なかなかのりちぎ者で、いわれたことは、よくまもっておりました。
夏のある日。
親父さまがちょいとかぜぎみで、かや(カを防ぐために吊り下げて寝床をおおうアミ)をつってねておりました。
むすこが心配して、ようすを見にまいりますと、
ブーン
やぶ蚊が一ぴき、かやのそばをとんでおります。
「さてさて、こまったものじゃ。中には大事な親父さまがござるのに、蚊(カ)のやつにはわからんとみえる」
むすこは、さっそくスズリをもちだして、大きな紙にさらさら字をかいて、かやにぶらさげました。
『この中に、かぜひきの親父さまあり』
おしまい
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