11月4日の小話
与太郎
きゅうに、夕立がふってきました。
ごいんきょが、
「こう、きゅうにふりだしたんでは、かさをかりにくるひとがいるだろう」
と、与太郎(よたろう)をよんで、
「わしが表にいては、立場上、かさを貸さぬわけにもいかぬが、つぎからつぎへと貸したんでは、かさがいくらあってもたりぬ。そこで与太郎。だれかがかさをかりにきたら、おまえが、てきとうにことわってくれ」
と、おくへひっこみました。
そこへ、となり町の徳助(とくすけ)が、走りこんできました。
「ちょっと、かさをおかりしたい」
「ほいきた」
与太郎は、さっそく、
「かさを、いちいち貸していたら、いくらあったってたりやしねえ。うちには、かさはないから、帰んな、帰んな」
と、冷たくおいかえしました。
それをおくできいていた、ごいんきょが、
「これ、与太郎。おまえのことわりかたは、あまりにもひどいぞ。もう少し、いいことわりかたをしなさい。たとえば、『かさはあるにはあるが、骨と皮がばらばらになっていますので、たなのすみにほうりあげてあります』とか何とか、そういうふうにいうものだ」
「あい、わかりました」
しばらくすると、となりのひとがやってきました。
「このごろ、ネズミが出てこまっておりますので、ひとつ、おたくのネコを貸してもらえませんでしょうか?」
すると与太郎は、
「そりゃあ、お安いご用だが、ネコはこのごろ、骨と皮がばらばらになりましたので、たなのすみにほうりあげております」
「・・・・・・」
それをきいて、となりのひとは、あきれた顔で帰ってしまいました。
ごいんきょは、またおくから出てきて、
「やれやれ、おまえにはこまったものだ。そういうときはだな、『ネコはこのごろ、フンのしまつが悪くてこまりますので、うらの物置につないでおります。お役に立てないで、まことにざんねんでございます』と、いうもんだ。わかったか?」
「はい、わかりました」
またしばらくすると、表どおりの親方がやってきました。
「ちょいと、すまんが、ごいんきょに、顔だしていただけませんかい」
すると与太郎、ここぞとおもい、
「はあ、いんきょは、ちかごろ、クソのしまつが悪くてこまりますので、うらの物置につないでおります。お役に立たないで、まことに、ざんねんでございます」
おしまい
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