1月29日の日本民話
キツネの倉
鹿児島県の民話
むかしむかし、あるところに、一人の男がいました。
男が荒地(あれち)を畑にしようと、ほり起こしていたら、
「ガチン!」
と、クワが思いっきり石をたたいたのです。
「しまった!」
クワがわれてしまったので、男はクワをなおしてもらうために鍛冶屋(かじや)へ行きました。
その途中、手に棒を持った子どもたちが、捕まえたキツネを叩いていじめていたのです。
「こら、お前たち、やめねえか。キツネがかわいそうだろう」
「おらたちが捕まえたキツネだ、おらたちの勝手だろう」
子どもたちは、キツネをいじめるのをやめません。
そこで男は、
「なら、そのキツネをおらに売ってくれんか?」
男はクワを鍛冶屋でなおしてもらうためのお金を子どもたちにやって、キツネを買いとりました。
そしてキツネを子どもたちのいない所へ行って逃がしてやろうと思ったところで、ふと我にかえりました。
「おらは、何をやっているんじゃ。新しい畑を作るにはクワがいる、そのクワをなおしてもらうには、鍛冶屋にはらうお金がいる。でも、そのお金がなくなってしもうた。キツネがクワをなおしてくれるのならともかく。・・・こりゃ大変だ。キツネよ、悪いがそういう事だ」
男はまた子どもたちのところへ行って、キツネを渡してお金を返してもらいました。
すると子どもたちは、前よりもキツネをいじめるのです。
それを見かねて、男はまた子どもたちのところへ行くと、
「やめてくれ、今度は本当に買うから」
と、またお金を渡して、キツネを買い戻しました。
そしてキツネを山へ連れて行き、
「もう、二度と捕まるなよ」
と、言って、逃してやりました。
数日後、男の家にあのときのキツネがやって来ました。
「この間はあぶないところを助けていただいて、ありがとうございました。お礼に何か差し上げたいと思います。私の家にはキツネの倉(くら)といって、何でも無い物は無いという倉があります。あなたの望みのものを好きなだけお持ち下さい」
と、いうので、男はキツネと一緒にキツネの倉へ行きました。
「これがキツネの倉です。どうぞ、中へ入って好きなものをとって下さい」
喜んだ男が倉の中へ入っていくと、キツネが倉の戸をバタンと閉めました。
そして大きな声で、
「ドロボウだ! 倉にドロボウが入ったぞ!」
と、さけんだのです。
そして、あちこちからたくさんの人が集まってきて、
「ドロボウは殺せー! ドロボウを殺すんだー!」
と、言うのです。
倉に閉じこめられた男はビックリ。
「ちがう、ちがう、おらはドロボウでねえ」
と、いいましたが、外の人たちは聞いてくれません。
「ドロボウは殺せー! ドロボウを殺すんだー!」
男はこわくなって、倉のすみっこでブルブルとふるえていました。
「だっ、だまされた。キツネにだまされたんだ」
しばらくすると外の騒ぎがおさまって、倉の戸がガラガラと開きました。
そしてさっきのキツネが、
「ビックリさせてすみません。さあ、クワでも着物でもお金でも、好きなものを持てるだけ持って、出てきてください」
と、言いました。
男はわけがわからず、言われたまま、持てるだけの物を持って倉から出てきました。
「どうでした? さっき閉じこめられた感想は」
「恐ろしかった。生きた心地もしなかった」
男がそう言ったので、キツネは満足そうにうなずくと、
「そうでしょう。実は私も先日、同じ思いをしました。あなたに助けてもらったときは、心の底から喜びましたが、その後でまた子どもたちに返されたときには、もう生きた心地はしませんでしたよ。そして再び助け出されたわけですが、あの時のことを考えると、今でも体がふるえます」
と、言ったという事です。
おしまい
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