2月23日の日本民話
黒ギツネの霊カ
北海道の民話
むかしむかし、ある漁村では、何年間もニシンがまったくとれないことがありました。
人びとの生活は苦しくなるばかりで、殿さまも心を痛めていました。
そんなとき、大昌院(だいしょういん)という、大変な霊力(れいりょく)をもった山伏(やまぶし)がこの近くにきているという話が殿さまの耳の入りました。
殿さまはさっそく大昌院に、豊漁(ほうりょう)の祈りをたのみました。
「わかりました。では本日より豊漁をねがって、百日間の行(ぎょう)をはじめましょう」
大昌院は雪の中、百日間のきびしい行をはじめました。
そして満願(まんがん→日数を限って神仏に祈願し、その日数が満ちること)の前の日の、九十九日目の夜のことです。
大昌院の耳に、ふしぎな声がきこえてきたのです。
「大昌院、お前にたのみたいことがあって、お前が行を始めた日の夜からわれもこのお堂の床下にこもっておるのじゃ。お前は、われの願いをきいてくれるか?」
大昌院はビックリして、ただだまっていましたが、相手はそれを了解(りょうかい)してくれたのだと受け取り、話しを続けました。
「われは、この地の者ではない。京の都のある稲荷(いなり)につかえる黒毛のキツネである。ここの殿さまのところへ、はるばる都から津軽(つがる)の海をわたってお嫁入りをしてきた初姫(はつひめ)さまをお守りするよう命じられて、たくさんのキツネたちと一緒にこの地へやってきた。初姫さまは不幸にも、こちらへきてまもなくなくなられたので、ほかのキツネたちは都へ帰っていったが、われは北海道のキツネと恋仲になり、夫婦となって子どもまでもうけたので、この地にとどまることにしたのじゃ。ところが六年前、殿さまが猟(りょう)にでたとき、われは道のわきにかくれて行列(ぎょうれつ)を見ていた。そこを殿さまに見つけられてしまったのじゃ。殿さまは、『めずらしい黒毛のキツネなるぞ。逃がすな。はよ、うちとれ』と、命じたので、われは命をうばわれた。それからいまなお、たましいはうかばれずにおるのじゃ。もし社(やしろ)をつくってわれの霊(れい)をまつってくれたら、うらみを忘れ、黒ギツネのこのわれが、長くこの地を守ってやろう。むろん、ニシンの不漁もおわらせてやろう」
長い話は、そこでとだえました。
大昌院はこの話を、さっそく殿さまに語りました。
殿さまは六年前のことをおぼえていて、さっそく黒ギツネのために社をつくり、その名を玄狐稲荷神社(げんこいなりじんじゃ)とつけたのです。
すると翌年から、またニシンの豊漁がつづいたということです。
おしまい
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