5月5日の日本民話
がわたろう祭り
大分県の民話
むかしむかし、保福寺(ほうふくじ)と呼ばれるお寺の近くに、『亀郷(かめごう)』という深い淵がありました。
そこには悪いカッパがいて、夏になると近くを通る子どもを水の中に引っ張り込んでしまうのです。
ある日、黄石(おうせき)という医者がカッパを改心させようと、知り合いの和尚さんに相談しました。
「わかりました。それではさっそく、ありがたいお経をカッパに読んで聞かせましょう。たとえカッパでも、心あるものならきっと伝わるはず」
次の日から、和尚さんは亀郷の淵にかよって、お経を読んで聞かせることにしました。
それから、十日ほどが過きた夜。
トントン、トントン。
と、寺の雨戸を叩く音がしました。
「おや? 誰だろう?」
和尚さんが雨戸を開けてやると、なんとそこには一匹のやせこけたカッパがいて、月明かりの下でしょんぼりとうつ向いて立っているのです。
その姿があまりにも哀れなので、和尚さんがカッパを中に入れてやると、 カッパは畳に手ついて涙を流しました。
「和尚さん。
わしは今まで、何人も子どもの命を取ってきた。
わしにとってはそれはただのイタズラで、今まで一度も悪い事だと思っていなかった。
それが和尚さんのありがたいお経で、命の大切さがよくわかった。
自分が今まで、どれだけ悪い事をしたかかも。
これからはもう決して、悪い事はしない。
命のある限り殺した子どもたちにわび、ほかの子どもたちを水の事故から守ろうと思う。
だから和尚さん、わしを許してくれ!」
それを聞いた和尚さんは、ふかくうなずきました。
「そうか、よく言ってくれた。
これで子どもの親たちは、どれだけ安心する事か」
それを聞いたカッパは何度も何度も頭を下げて、亀郷へ帰って行きました。
そしてその時から、子どもたちの水の事故が目に見えて少なくなったのです。
人々はカッパに感謝して、毎年夏の土用になると、キュウリやナスやうどんなどのカッパの好物を亀郷の淵にお供えしたそうです。
おしまい
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