5月15日の日本民話
テングになった太郎坊
徳島県の民話
むかしむかし、あるところに、子どものいない木こりとおかみさんがいました。
ある日の事、木こりが山へ行ったら、大きなスギの木の下で、カゴに入れられた赤ちゃんがないていました。
「こりゃ、神さまがさずけてくださったにちがいないぞ」
木こりは大喜びで、赤ちゃんを家につれて帰りました。
とても元気な赤ちゃんで、何でもパクパクとたくさん食べます。
木こりとおかみさんはこの赤んぼうに、太郎という名前をつけて、それは大切に育てました。
太郎はスクスク育って、やがて村一番のわんぱく坊主になりました。
この太郎、どういうわけかドングリの実が大好きで、いつもドングリを口の中に入れてははき出していました。
ある日の事、太郎の下に弟が生まれました。
太郎は、この赤ちゃんがお気に入りで、
「おらに、子守りさせてくれ」
と、言うので、おかみさんは太郎に赤ちゃんをおんぶさせると、太郎は赤ちゃんをおんぶしたまま、スルスルと高い木へのぼっていくのです。
おかみさんはビックリして、
「あぶない。早くおりて!」
と、さけびました。
すると太郎は、今度は逆さまになって、あっというまに下へおりてきました。
おかみさんは、その素早さにあきれて、
「お前は、まるでテングさまみたいじゃ」
と、ためいきをつきました。
するとその夜、太郎は木こりとおかみさんの前に両手をついて言いました。
「長い間、お世話になったけど、おら、もう山へ帰らなければならねえ。おっかあのいうとおり、おらは本当は、テングの子どもだ」
「・・・・・・」
木こりもおかみさんも、ビックリして声も出ません。
「いつまでもたっしゃでいてくれ。おら、おっとうと、おっかあの事を忘れねえ」
と、言ったかと思うと、山のほうに走っていきました。
木こりとおかみさんは、太郎のあとを追って山へのぼっていきました。
すると、スギの木のてっぺんから太郎の声がしました。
「おら、テングの太郎坊じゃ。もう家にはもどれねえ。そのかわり、毎年、大みそかの夜には行くからな」
そこで木こりの家では毎年、大みそかの夜になるとおせち料理を作り、座敷(ざしき)のとこの間へおきました。
すると、お正月の朝には、すっかり料理はなくなっていました。
それから、太郎がいつもはきだしていたドングリの実からめが出て、やがて大きなカシの木になりました。
木こりの家のまわりには、そんなカシの木が何本もはえていて、木こりはカシの木長者といわれる村一番のお金持ちになったという事です。
おしまい
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