6月15日の日本民話
サル酒
大分県の民話
むかしむかし、府内(ふない→大分市)に、中屋玄通(なかやげんつう)という貧しい商人がいました。
毎朝、府内の酒屋から少しの酒を仕入れては、近くの町や村に売りに行っていました。
あるとき玄通は、浦辺(うらべ)へ酒を売りに行くので、高崎山(たかさきやま)のふもとを歩いていました。
すると、どこからか、
「キーッ、キーッ」
と、苦しそうな声が聞こえてきたのです。
「なんだ、あの声は!」
玄通が急いで声のする方へ行ってみると、サルが地面を転げ回っていたのです。
見てみると大きな力二がサルの片足を、ギューッとはさんでいるのでした。
かわいそうに思った玄通は、急いで力二をとってやりました。
そしてサルに、
「よしよし。さぞ痛かったろう。だけどな、カニもお前やわしと同じ生き物なんじゃ。許しておやりよ」
と、いいきかせるように言うと、カニも放してやりました。
さて次の日、いつものように玄通は、高崎山のふもとを通って酒を売りに行くと、
「キキーッ、キーッ」
と、またサルの声がします。
見ると昨日のサルが、しきりに玄通を誘っているようです。
「なんじゃ、わしに来て欲しいのか?」
玄通は不思議に思いながらも、サルについて行きました。
するとそのうち、大きな岩の前に出ました。
その岩の下からは、清水が湧き出ています。
「キキーッ、キキーッ」
サルがその水を指さすので、何気なくなめてみた玄通は、あっと声をあげました。
「こっ、これは酒じゃ。しかも上等の酒じゃ」
なんとその清水は水ではなく、天然の酒だったのです。
助けてもらったお礼に、サルはサル仲間に伝わる秘密の酒を玄通に教えてくれたのでした。
こうして玄通はその酒を売って歩き、やがては九州一の酒長者になったのです。
そしてその酒は、『サル酒』と呼ばれて、今でも高崎山ではこの伝説にちなんでサル酒が売られているのです。
おしまい
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