7月18日の日本民話
かぶと島
長崎県の民話
今から四百年ほど前、長崎の町に、お小夜(さよ)という美しい娘がいました。
お小夜はキリシタンで、その美しい姿は絵に描かれたマリアさまにそっくりなので、人々は『マリアのお小夜』と呼ぶほどでした。
その頃、南蛮寺(なんばんでら→キリスト教会)の門の前で花売りをしている、与次郎(よじろう)という若者がいました。
お小夜は毎日、与次郎の花を買っては南蛮寺にお供えしていたのですが、いつしか二人は恋仲になっていたのです。
やがて二人のことが、町のあちこちで噂されるようになりました。
当時キリシタンには、他の宗派の男女と付き合ってはならないという厳しい掟があったのです。
ある晩、二人は人目をさけて浜辺で出会っていました。
ところがこれを、神父に見られてしまったのです。
捕まった二人は、とても厳しいおしおきを受けました。
特に与次郎の方は、キリシタンをたぶらかした極悪人として、長崎港の沖に浮かぶ、かぶと島へ島流しにされたのです。
「お小夜。夜になったらかぶと島を眺めてくれ。私は毎晩赤い灯をともす。赤い灯が見えるかぎり、私は生きているから」
与次郎はお小夜にそれだけを言い残すと、かぶと島へ送られました。
それからというもの、お小夜は夜ごと浜辺に出ては、かぶと島を眺めました。
日も暮れる頃、島にボーッと赤い灯がともります。
その灯を眺めては与次郎を思い、涙を流す毎日でした。
でも、これを神父たちはこころよく思いません。
「与次郎は、信者を惑わす悪魔じゃ。悪魔には、神罰が下さるべきだ」
さて、次の日の夜、お小夜がいくら待っても、かぶと島に灯はともりませんでした。
その日の夜明け、お小夜は、まるで何かにつかれたかのようにふらふらと歩き出して、一歩一歩、海の中に足を踏み入れたのでした。
「与次郎さま。来世では必ず結ばれましょう」
翌朝、かぶと島の波打ち際に、並んで倒れている男女の死体があがったそうです。
おしまい
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