7月23日の日本民話
竜女おすわ
長崎県の民話
そのむかしむかし、島原(しまばら)のご城下に、杏庵(きょうあん)という若い医者がいました。
たいへんな親孝行で、母親と二人きりで暮しています。
ある日、杏庵は薬草をとりに、霊仙岳(うんぜんだけ)のふもとの諏訪(すわ)の池に出かけますと、五、六人のイタズラ小僧が、一匹の大きな白ヘビをいじめています。
これを見ていた杏庵は、イタズラ小僧をおいはらって、白ヘビを池の中へ逃がしてやりました。
ある雨の夜、一人の若い娘が、びしょぬれになって杏庵の家ののき下に立っていました。
杏庵は親切にその娘を家の中に入れて、事情を聞きました。
すると娘は、シクシク泣きながら、
「長い旅の途中、足にケガをしてしまいました。傷の手当てをしていただけないでしょうか?」
と、たのみました。
杏庵はさっそく傷の手当てをしてやりましたが、娘はすっかり疲れきった様子です。
杏庵は母親に相談して、足の傷が治るまで家にとめてやることにしました。
それから、半月ばかりがすぎました。
娘はすっかり元気をとりもどし、足の傷も治りました。
そんなある日の事、
「すっかりお世話になりました。おかげさまで、こんなに元気になりました。このご恩は一生わすれません。事情があって薬代も持ち合わせません。でも、必ずお返しにあがります。わたしの名は、おすわと申します」
と、おすわは帰って行きました。
その後、杏庵が急な病気でねこんでしまいました。
母の必死の看病(かんびょう)にも、よくなりません。
母も、すっかり疲れはてました。
そこへ、おすわがたずねてきたのです。
おすわが母親にかわって杏庵の看病をしますと、病気は急によくなり、杏庵は元気になりました。
「あなたはわたしの命の恩人じゃ。よければ、うちにいてくだされ」
杏庵も母も、美しくて気だてのよいおすわをすっかり気にいりました。
やがて二人は結婚し、男の子が生まれました。
その子は、幸太郎(こうたろう)と名づけられました。
さて、ある夏の暑い日の事です。
杏庵が外からもどって来ると、とぐろを巻いた竜(りゅう)が幸太郎におっぱいをのませているのです。
そして竜は、おすわの姿にかわりました。
本当の姿を知られたおすわは、幸太郎を残して立ち去って行ったのです。
幸太郎の手には、キラキラ光る玉がにぎられていました。
その夜から、諏訪(すわ)の池に地鳴りが続き、ある日とつぜん、雲仙岳(うんぜんだけ)が大爆発を起こしました。
この地震で外へ飛び出した杏庵は、大空へ苦しげに飛び去る片目の竜を見ました。
この竜はおすわで、片目は幸太郎の持つ光った玉だったという事です。
おしまい
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