9月8日の日本民話
ウマ吸い膏薬
神奈川県の民話
むかしむかし、源頼朝(みなもとのよりとも)が、『大黒(おおぐろ)』とよばれる名馬にまたがっていたときのことです。
何か気に入らないことがあったのか、大黒はたづなをひきちぎって走りだし、そのまま空へかけのぼりはじめました。
頼朝(よしとも)をはじめ、お付きの者たちはビックリ。
「だれか、あのウマをつれもどせ!」
頼朝が声をあげると、鎌倉(かまくら)からやってきていたケガや病気の治療係の一人が、
「かしこまりました。わたしが、ひきもどしてごらんにいれましょう」
と、名のりでたのです。
この男は薬草などを練り合わせて薬を作る、膏薬練り(こうやくねり)の仕事をしていました。
膏薬練りは、すばやく腰につけていた布袋から自分がつくった膏薬をとりだして、指の先につけました。
そして空をかけのぼっていくウマのほうへ指をのばしながら、ウマをにらみつけました。
すると大黒は、きゅうにもがくように足を動かしながら空からひきもどされてきて、ペタリと膏薬練りの指先にはりついたのです。
「おおっ、見事じゃ! なんともよくきく膏薬じゃ。して、その膏薬の名はなんともうす」
頼朝は感心しながら、たずねました。
膏薬練りは、かしこまりながら、
「はい。この膏薬はわたしが工夫をこらしてさまざまな薬草をとりまぜて、ついこのあいだつくりあげた新しい膏薬です。まだ名はありません」
そうこたえると、頼朝は、
「それでは、『ウマ吸い膏薬』と名づけるがよい」
と、いって、自分で命名書(めいめいしょ)を書き、膏薬練りに手わたしたという事です。
おしまい
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