10月10日の日本民話
気のいい山姥
岐阜県の民話
むかしむかし、飛騨の山奥に、一人の山姥(やまんば)がすんでいました。
この山姥は鳥やけだものの生き血を吸ったり、肉を食べたりしてくらしていました。
そしてたまに人里へおりてくるのですが、人に危害をくわえることはなく、反対に、お百姓たちの仕事を手伝ったりするのです。
山姥は女の人ですが怪力の持ち主で、男の人が四、五人でする仕事でも平気でやってのけるので、お百姓たちは大喜びでした。
あるとき、仕事を手伝ってくれた山姥が、
「ああっ、頭がかゆい。頭がかゆい」
と、しきりにいうので、お百姓が頭を見てやると、髪の中にムカデや毛虫がいっぱいいたそうです。
そこでお百姓の奥さんが、いらなくなった古いくしをあげると、山姥はそれで髪の毛をすきながら、
「ええもの、もろた。ええもの、もろた」
と、大喜びで山へ帰っていきました。
それ以来、月の美しい晩に女滝(めたき)の淵で、山姥が長い髪の毛を洗ってくしでとかしているのを、きこりたちがよく見るようになったそうです。
ある日の事、山姥は二合ほどしか入りそうもない徳利(とっくり)を酒屋の小僧さんの前につきだして、
「これに、五升入れてくれろ」
と、いいました。
「こんなちっこい徳利に、五升入るもんか。せいぜい二合だよ」
小僧さんが笑うと、山姥は、
「なんでもいいから、入れてくれろ。はやく入れてくれろ」
と、いいます。
酒屋の小僧さんは、しかたがないので、
「そんなら、入るだけ入れてやるよ。もし五升入っても、代金は二合分でいいよ」
と、冗談をいって、大きな酒樽からお酒を入れると、不思議なことに小さな徳利にどんどん酒が入っていくのです。
そして五升どころか、いつまでも入りつづけて、とうとう酒樽がひとつ空になってしまったのです。
山姥は、二合分の代金を小僧さんに渡して、
「ありがとさん」
と、上機嫌で、山へ帰っていったという事です。
おしまい
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