10月31日の日本民話
あぐりこキツネ
秋田県の民話
むかしむかし、稲荷神社からきたという、立派な身なりの男の人が村の石屋にやってきました。
そして、
「来月の祭りの日までに、キツネの石像をひとつ、つくってほしい」
と、いうのでした。
「来月の祭りの日までというのは急すぎます。とてもそれまでには出来ません」
石屋さんは断ったのですが、
「急なのはわかっています。ですが、そこをなんとか」
と、男の人に何度も頭を下げられたので、
「わかりました。では、やってみましょう」
と、男の人に約束しました。
その日から石屋さんは、コツコツと石をけずりはじめました。
注文した男の人も次の日から何度もやってきて、石屋さんの仕事ぶりを見ていました。
約束の日までは、半月もありません。
石屋さんは、ろくにねむらずに石をけずり続けました。
そしてどうに約束の日に、見事なキツネの石像が出来上がったのです。
男の人はたっぷりの代金をはらって、その石像を何人かの若者と一緒に運んでいきました。
さて祭りの日になると、石屋さんは自分がつくった石像を見に神社へ出かけていきました。
社の前に置かれた石像を見ると、われながら立派な石像です。
「そうだな。神社へあいさつをしておこう」
そう思って、社務所(しゃむしょ→神社の事務を取り扱う所)へ顔を出すと、
「あの立派なキツネの石像をつくってくださったのは、お前さまでしたか。いやね、朝起きてみると、社の前にキツネの石像がたっておったんで、びっくりしましたわ。あそこに何もないのは、さびしいと思っておったのです。すばらしいものをいただいて、感謝しております」
神主に頭をさげられて、石屋さんはびっくりしました。
「もしかして、あの客は・・・」
急いで家に帰った石屋さんが男の人からもらった代金を見てみると、なんとたくさんの代金は、すべて木の葉っぱに変わっていたのです。
「しまった。あぐりこキツネにやられた!」
『あぐりこ』というのは土地の言葉で、あきれてしまうという意味です。
この土地のキツネは畑を荒らすネズミたちを退治して、お百姓たちに喜ばれたりもしましたが、とてもいたずら好きで、この様によく人をだましたそうです。
おしまい
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