11月5日の日本民話
熊野参り
和歌山県の民話
むかしむかし、サルがカエルのところへやってきました。
「カエルどん、カエルどん、一緒に熊野参り(くまのまいり)に行かないか?」
「いいとも。わしも一度いきたいと思っていたところだ」
そこで二人は、さっそく熊野参りにでかけました。
熊野参りというのは、熊野の権現(ごんげん)さまという神さまにお参りすることで、むかしから大勢の人が出かけたのでした。
ところがサルとカエルでは、足の速さが違います。
カエルが夢中で歩いても、すぐにサルにおいていかれます。
そこである日、カエルが言いました。
「サルどん、どうだろう。交代でおんぶしながら行っては」
「なるほど、それなら一緒にいけるというわけだ。よし、お前が先にのれ」
サルはカエルをおんぶすると、ピョンピョンと飛ぶようにかけだしました。
(ああ、らくちん、らくちん。しかし、このまま熊野まで行くいい方法はないものか?)
カエルはサルの背中で、あれこれと考えました。
そのとき、サルが立ちどまって言いました。
「ああ、くたびれた。カエルどん交代してくれ」
カエルはしかたなく、サルを背中にのせました。
でも小さなカエルでは、サルをおんぶして走るのはたいへんな事です。
「サルどん、うんととばすから上を向いてくれ。下を向くと落っこちるからね」
と、カエルが言いました。
サルは言われたとおり、上を向きました。
すると風が吹いてきて、空の雲がとぶように流れていきます。
(ほほう。カエルも、なかなかよう走るわい)
サルはすっかり感心して、流れる雲を見ていました。
でも、カエルはその場でジッとしたまま、全く動きません。
しばらくたって、カエルが言いました。
「さあ、おりてくれ、交代だ」
サルがおりてみると、さっきと同じ場所です。
「なんだ、ぜんぜん進んでいないぞ」
「バカな事を言うな。熊野にいくまでには、同じような場所が七ヶ所もあるんだぞ」
「なるほど。あれほど走ったのに、さっきの場所とそっくりだな」
サルはカエルをおんぶすると、またピョンピョンとかけました。
このようにして、カエルは交代するたびにサルをだまして、とうとう一歩も歩かずに、熊野参りをすませたという事です。
おしまい
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