11月14日の日本民話
三九郎じいさん
三重県の民話
むかしむかし、あるところに大きな屋敷があり、そこに三九郎(さんくろう)じいさんが住んでいました。
この三九郎じいさんはずいぶんとのんきな人で、裏山へ行っては、毎日まきばかりを取って来ていました。
そして冬になると、ウマの背にまきをつんでは町へ売りに行くのでした。
ある日のタ方、村の坂まで来ると、いつのまにかキツネがウマの背にとび乗って、歌を歌いはじめました。
次の日も、また次の日もキツネは現れて、ゆうゆうとウマの背で歌を歌うのです。
三九郎じいさんは、とうとう腹をたてて、
「今日こそは、しばりつけてやるぞ!」
と、どなりつけると、キツネは姿をけしてしまいました。
三九郎じいさんがやれやれと思っていると、今度はウマの前に立って大笑いするのです。
三九郎じいさんがキツネをしばろうとすると、またウマの背にとび乗りました。
ウマはまきの重さとキツネの重さとで、とうとう坂道の途中でへたばってしまいました。
三九郎じいさんはウマに、
「キツネをしばりつけるから、そっとしておくれ」
と、いいましたが、キツネは三九郎じいさんをうまくだまして、ウマのまわりをとんだりはねたり。
そのうちにあたりはとうとう、暗くなってしまいました。
三九郎じいさんは、暗くなって目の見えなくなったキツネをしばろうとすると、今度はウマが三九郎じいさんにむかっていいました。
「キツネが今、背中に乗っています。早くしばって下さい」
「よし」
三九郎じいさんはすばやくキツネにとびかかり、やっとのおもいでキツネをしばりあげました。
夜中ごろ、三九郎じいさんは家に着きましたが、家の者はすでに寝ていて、いくら戸をたたいても声がありません。
やっと三九郎じいさんが家の戸をあけてウマを入れようと思い、ふと見ると、しばっていたはずのキツネの姿が見えず、キツネは家の中にちゃんと座っているではありませんか。
三九郎じいさんが、家の者たちに
「おーい、今帰ったぞ! 今帰ったぞ!」
と、何度呼んでも返事がなく、返事があったと思えば、キツネが家の者の声で返事をしているのです。
おこった三九郎じいさんはキツネを追いかけると、キツネは仏壇(ぶつだん)の中ヘピョンと姿をかくしました。
キツネは仏さまに化けたので、どちらが本物の仏さまかわからなくなってしまいました。
三九郎じいさんは、しばらくうでをくんで考えていましたが、やがて
「そうそう、うちの仏さまはご飯をあげると、鼻をひくひく動かして食べなさるんじゃ、ありがたいな」
と、いいながら、仏さまにご飯をさしあげました。
すると、仏さまに化けたキツネが鼻をひくひく動かしたので、三九郎じいさんはここぞとばかり、持っていた手オノでキツネの鼻をたたきのばしたという事です。
おしまい
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