きょうの日本民話
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2009年 1月15日の新作昔話
ふたつのネズミ船
東京都の民話
むかし江戸の町は、『火事が名物』といわれるほど、火事の多い町でした。
ある年の冬におきた火事は、三日三晩も燃えつづけて、江戸の町の三分の二が焼け野原という大変な大火事になりました。
火事のあとは食べるものがなくなってしまい、江戸の人たちはさらに苦しいくらしがつづきました。
そしてこの大火事で、江戸のネズミたちも困ったことになりました。
食べ物がないどころか、お腹を空かせた人間たちにつかまって食べられてしまうのです。
「このままじゃ、江戸中の仲間がいなくなってしまう」
ネズミたちは焼けあとに集まって、相談を始めました。
そして、江戸から引っ越しすることにしたのです。
「さて、どこへいくとしよう。おいらは、寒いところはごめんじゃ。あたたかいところで、食べ物がいっぱいあるところがいい」
年寄りネズミがいうと、
「それじゃ、九州がよい。あたたかくて、米やイモもたくさんあると聞いたぞ」
「決まりだ。みんなで九州へいこう」
こうして何十万匹という江戸のネズミたちが船にのって、九州へと旅立ちました。
船が江戸をはなれて、三日ほどたった夜明けのことです。
海の向こうから、一隻の船がやってきました。
不思議なことにその船もネズミ船で、何十万匹というたくさんのネズミがのっていました。
そして、
「わしらは、九州のネズミでごわす。これから江戸へいくところでごわす」
と、いうのです。
「なんだと? 無理無理、そりゃあ、だめだ」
江戸のネズミの親分は、大火事の話をしました。
「てなわけでよ、おらたちはこれから、あたたかくて食う物もたくさんある九州へいって、くらそうと思うんだ」
江戸のネズミの親分の言葉に、九州のネズミたちはおたがいに顔を見あわせて首をかしげました。
「なるほど、それでわかったでごわす。なんでも東の方で大火事があったといって、欲のふかい人間たちが米を高く売ろうとして、九州からどんどん運びだしておるんでごわすよ。ネズミはその米を食うからと、見つけしだい殺されるでごわす。だからみんなで逃げてきたんでごわすが、江戸がそんな様子じゃ、わしらはいくところがねえでごわすなあ」
そこで海の上で出会った江戸のネズミと九州のネズミたちは、あれこれと相談をしました。
「江戸へいけば、人間につかまって食われる。九州では、欲のふかい人間たちに殺される。これじゃ、どうにもならん。どうせ死ぬなら、みんなで海に飛び込んで死んでやろうじゃないか」
江戸のネズミの親分がいうと、九州のネズミの親分をはじめ、みんなが賛成しました。
そして江戸の親分と九州の親分が先頭をきって海へ飛び込むと、ふたつの船の何十万匹というネズミたちもあとに続いて、次々と海へ飛び込んでいったそうです。
おしまい
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