きょうの日本民話
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2009年 2月1日の新作昔話

テングのお礼

テングに気に入られた男
静岡県の民話

 むかしむかし、静岡の大きな川の渡し場のそばに、一軒の小さな茶店がありました。
 ある日の事、山伏姿(やまぶしすがた)の背の高い男がやってきて、ひと休みしていきました。
 男は出されたお茶や茶わんに、注文したおそばなど、何から何までほめると、主人の三五郎(さんごろう)にこう言いました。
「あんたはまだ一人者だね。なぜ、嫁さんをもらわんのじゃ? これからわしは江戸へ行くが、何人も良い娘を知っておる。帰りには良い娘を連れてきてやるから、夫婦になりなさい」
 そんな事を言って、渡し舟で川を渡っていきました。
「・・・嫁さんか」
 三五郎はなんとなく、うれしくなりました。
 そしてしばらくたったある日、あの山伏姿の男が、本当に若い娘を連れてやってきたのです。
 娘は恥ずかしいのか下をむいたまま、まったく顔をあげません。
「これは、ほんのみやげじゃ」
 男は風呂敷につつんだ重い物を三五郎の前に差し出すと、二人にむかって、
「よいか。夫婦というものは、どんなときでも仲むつまじくなければならん。けんかなんぞするなよ。それではわしは、ちょっとそこまで行ってくる」
と、言って、茶店から出ていきました。
「ああ、お茶が冷めてしまった。さあ、熱いのをどうぞ。江戸からでは大変じゃったろう。疲れておるなら、二階でひと休みするとよい」
 三五郎がいうと、娘ははじめて顔をあげました。
 そして熱いお茶を飲むと、
「ヒクッ!」
と、 大きなしゃっくりをして、急にそわそわしはじめました。
「あれ? ここは? ここは、どこですか? あなたは、どなたですか?」
 三五郎はおどろきましたが、気を落ちつかせて、これまでの事を話しました。
 すると娘は、
「あっ! きっと、あの南天(なんてん)の実のような赤い薬だわ」
と、こんな話をはじめたのです。
「実は、江戸のある橋のたもとで、急に気分が悪くなったのです。すると山伏姿の背の高い男が現れて、『これは元気になる薬じゃ。すぐに飲みなさい。』といって、赤玉の薬を一粒くれました。それからは、何も覚えていません。たったいま、熱いお茶を飲んだら、しゃっくりが出て正気にもどったのです」
 そして娘は、すぐに江戸へもどっていきました。
 一人残された三五郎が、山伏姿の男がみやげだと置いていった風呂敷包みを開けてみると、なんと中には小判で六十両ものお金が入っていたのです。
 三五郎は気味が悪いので、すぐに役人に届け出ました。
 すると役人は、
「ああ、お前さんで、何人目だろうか。実はその男は、テングだと言われている。テングは気に入った相手に、親切にするというからな。嫁さんは手に入らずおしい事をしたが、お金はお前さんの物だ。ありがたく、もらっておきなさい」
と、いいました。
 テングはそれっきり、三五郎の前には現れなかったそうです。

おしまい

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